第108話最終到達点



 赤、黄、青の閃光が戦場をひた走り、小さな体に強大な魔力を秘めた幼き勇者の来訪は、絶望的な戦場を明るく照らし出す。


 その中でも赤を基調とする、一の騎士【クレナ=メン】は烈火の如く、最前線で暴れまわっている。


「喰らうが良い、我が正義の一撃! 聖なる星の瞬きをぉーっ!」


 大槍が紅蓮の炎のように発火した。クレナの鎧のあらゆる箇所より、炎が噴き出す。

炎は彼女の膂力を倍増させ、大槍を目にも留まらぬ速さで薙がせ、一帯の闇魔人とザンゲツを一撃で葬り去る。

しかし彼女は満足せず、鎧の各所から炎を噴出させ、矢のような速さで移動をし、敵を殲滅し続けている。


「行きなさい! あたしの可愛い使い魔ちゃん達!」


 戦場の中程に立つ二の騎士【ポーラ=メン】は、薄笑いを浮かべながら金色の二枚の鉄扇を投げた。

 回転する鉄扇は、ポーラの手の動きに合わせて縦横無尽に戦場を跳び、ザンゲツを次々と切り裂いてゆく。

そればかりか、鉄扇が舞うたびに放たれる"金色の衝撃波"はより広範囲の敵を殲滅し続ける。


「良い集まり方です。一気に殲滅して差し上げます――ゴー! 大氷結剣流グランアイスソードウェイブ!」


 三の騎士【ラトーラ=メン】の持つ魔導書が青い輝きを放ち、眼鏡が輝く。

現出した巨大な氷の刃は、波のようにザンゲツや闇魔人へ押し寄せ、その冷たい刃でまとめて打ち砕かれる。

ザンゲツはおろか闇魔人さえも、ラトーラには近づけず、やられるばかりであった。


「そ、それぇ! えい! おおっとっと!」


 そして幼き勇者【ステイ=メン】は最後方で、よろよろと立派な宝剣に翻弄されつつも、なんとかザンゲツを切り裂く状況だった。


「ステイ、いい感じよ! その調子!」

「最高っ! もっとかっこいいとポーラお姉ちゃんにみせて、ステイ!」

「ナイス! グッジョブ! ステイ!!」


 三戦騎の三つ子姉妹は、きっちり敵を倒しつつも、弟の勇者ステイの称賛に余念がない。

最前線で戦いながらも、時折ステイを気にして、バックアップをしていたりする。

さすがは聖王国最強の三つ子姉妹である。


「人間なんぞに遅れとるんじゃないけん! 気合いれて敵をささらもさらしちゃれ!」


 傷だらけの族長フルバの声を受け、ビムガン達も奮戦する。


「待たせたな、二回戦だ! 今回はやらせはせんぞ!」

「二回も三回も同じ! 戦いを肯定する邪悪、滅ぶべし!」


 フェアとフランは再度戦闘状態に入った。再び剣と拳の応酬が開始される。


「ちぇすとぉー!」

「どっせぇーい!」

「ぐわっ!!!」


 ゼラとベラのコンビは、前後からトリアを激しく切りつけた。


 セシリーが操る巨大ラフレシアも、蔓を縦横無尽にふりまわし、闇魔人をなぎ倒す。

三戦騎の救援により、セシリー達は勢いを取り戻し、なんと寸前のところで敵の進行を喰い留めている。


(これなら! 来なさい、タウバ!)


 セシリーはそう強く念じつつ、巨大ラフレシアを操り、戦闘を継続している。

そして、未だ東の塔へ僅かに絡み付いている蔓より、黒い翼を羽ばたかせて飛び上がる東の魔女のよ:タウバ・ローテンブルクのヴィジョンが流れ込んできた。


「東の魔女たるわらわを怒らせるとは、なんと愚かな。身の程を知るがよい!!」


 すぐさま今の主戦場である巨大ラフレシアの前に到達したタウバは、空中で大きく腕を掲げる。

一瞬で赤紫色をした魔力を収束させた。


「すべて滅べぇ! 小星屑之記憶プティスターダストメモリー!!」


 タウバは収束させた魔力を空へ打ち込む。すると雲にまるで星空のような光が瞬く。

瞬きはすぐさま流星群の如く、荒野へ向かって降り注ぐ。


 瞬きは荒野を穿ち、ビムガン族をこの葉のように吹っ飛ばす。そればかりか眷属であるザンゲツや、闇魔人さえも、見境なく消滅させてゆく。


「タウバ、激怒中! 緊急事態!!」

「ええい、タウバめ! 私達ごと殺すつもりか!?」


 さすがのフランとトリアも、タウバの激しい魔法から逃げ惑うことしかできずにいた。


 星屑魔法は戦場で最も大きな標的であるラフレシアへも降り注いだ。


 花弁は散り、蔓は焼き切られ、茎が焼け焦げてゆく。

芯である丸太が見え始め、巨大ラフレシアは炎に巻かれる。

 戦場に咲く巨大な赤い花は無残にも花弁を散らし、炎の中へ崩れてゆく。


 やがて星屑の蹂躙は終わった。

荒野は穴だからけになり、敵も味方も関係なく、被害は甚大。


 そんな凄惨な戦場の様子をみて、タウバは邪悪な笑みを浮かべた。


「どうじゃわらわの力は! 逆らった罰じゃ!」


 タウバは地上へ黒い翼を羽ばたかせながら、緩やかに降下して行く。


「さぇて、ベルナデットはどこに隠れておるのかのぉ。どうせ臆病なお前のことじゃ。わらわを引き付けて魔法で倒そうという魂胆じゃろて!」


 着地したタウバは手当たり次第に赤紫の衝撃波を放ちながら、戦場をぶらぶらと歩き回る。


(今だ!)


――敵(タウバ)は完全に油断している。


 そう思ったセシリーは、隠れ潜んでいた巨大ラフレシアの残骸から飛び出す。

そして棘の鞭を放ち、それをタウバの腕に巻き付けた。

 タウバの腕が逸れ、衝撃波が曇天へ打ちあがり消えてゆく。


「なんじゃ、生きておったか花の魔物よ」

「ええ、生きていたわ! あの程度で死んでたまるもんですか!」

「くふふ……良い威勢じゃ。気に入った! どうじゃ、ラインとわらわの配下にならんか? そした好きなだけ暴れさせてやる。どうじゃ?」

「そんなの死んでもごめんよ! 今よみんな!」


 セシリーが声を上げる。

すると機会を伺うため瓦礫の中に隠れ潜んでいたゼラ、ベラ、フェアが飛び出した。


「ようやく捕まえたっす! 観念するっす!」


 ゼラはタウバを羽交い絞めにし、


「セ、セシリー! 早くするのだぁ!」


 タウバの足に飛びついたベラは何度も蹴られながらも、決して離れようとはしない。


「お嬢様! 今です! 発動を!!」

「ええい! 邪魔な奴らめ! 離せ! 離すのじゃぁ!」


 フェアの声を打ち消すように、タウバは怒りに満ちた叫びを上げた。

身体から魔力を電撃に代えて放ち、拘束を解こうともがく。

 強い電撃が身体へ流れ込み、気を許せば意識が一瞬で霧散してしまいそうだった。


 もはや一刻の猶予もない。


 セシリーは手にした青い魔石を地面へ叩きつけ、砕いた。

瞬間、荒野に魔法陣が広がり、タウバはおろか、セシリー達さえも青白い輝きで照らし出す。


「貴方特製の処刑台へ案内するわ。覚悟するのね、東の魔女タウバ・ローテンブルク!」

「なんじゃと……――!?」


 魔法陣が更なる輝きを帯び、タウバを、そしてセシリー達をその場からかき消してゆく。


「タウバっ! 追うぞフラン!」

「了解!」


 吸血騎トリアと魔導人形拳士フランも、壮絶な魔法陣の輝きへ走り飛び込んでゆく。


 魔女とその一派はセシリー達と共に消え、戦場へは静寂が訪れるのだった。

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