第33話冒険者殲滅戦――<ブリーフィング(クルスside)>


「――以上が冒険者一党のこれまでの動きです。人間の数は総勢36。南の方角より七隊に別れて捜索を開始しています。各集団に杖を持った魔法使いがそれぞれ一名ずつ付いています」


 アルラウネのロナは、まるで近くで見てきたように、クルスへ報告をした。

 ロナの根は樹海全域に伸びているらしく、神経を研ぎ澄ませば、樹海のあらゆる情報を収集できるとのことだった。

 全く持って恐ろしく、何よりも頼もしく感じるクルスなのだった。


「魔法使いの中に瞳が赤く、少し耳の長い、白いローブを着た銀髪の少女はいるか?」

「えっ? あ、ああ、はい! ちょっとお待ちを!」


 ロナは慌てふためきながら、再び神経を集中させる。


(居ないでくれ、ビギナ……)


 これからクルスは、同族である人間を敵にする。

 最悪、殺す覚悟さえ固めていた。しかしビギナだけは別だった。

人を敵に回すと決意したが、彼女だけは助けたかった。だから昨晩、依頼を断るように告げたのだった。


「赤い瞳、長い耳に、銀髪、そして白いローブの魔法使い……いますね」

「ッ!?」


「樹海の真ん中をまっすぐ進んでいる集団の中にいます。メンバーはとても重そうな鎧を着た男性、背の小さな男性と背が大きな女性。クルスさんのような弓使いもいます。その先頭には、金色の鎧を着た男性。彼はとても強そうです。美味しそうな……じゃなかった、強い魔力を感じます」


「そうか……」


 敵の中にビギナがいる。その事実は、クルスの胸中へ暗い闇を落とす。


(忠告を聞き入れてくれなかったのか? しかも何故、フォーミュラの下に……?)


 クルスと離れている間に、ビギナに何かがあったのは明白だった。そして原因は恐らく魔法剣士のフォーミュラに違いない。この状況は、彼女の望まないものだと考えられた。ならばビギナだけは助けたい。必ず。


「なに怖い顔しているの? やっぱり同族と対峙するのは気が進まないのかしら?」


 脇にいたラフレシアは疑いの視線を送っている。

 マタンゴは今でも斬ってかかりそうな程、鋭い殺気を放っている。

これ以上の妙な態度は余計な疑いを持たれかねない。


「申し訳ない。敵の中に厄介な連中をみつけたのでついな。さぁ、始めよう!」


 クルスは手にした大きな羊皮紙を地面へ広げる。そこにはロナとベラの助力を得て描いた、樹海の簡単な地図があった。

地図へ向けて、ロナが蔓を伸ばす。


「先ほども言いましたが、36名の冒険者集団は基本的に5人一組、7パーティーに別れて南方から進んできています。このルートを真っ直ぐ進めば、樹海全てを探索することになります」

「被害状況は?」

「それがさっきから、ですね、どんどん魔物や動物がその……」

「わかった。そこまでで良い。ありがとう」


 ロナの表情から、被害がどれだけ被害なのかは分かった。うかうかとしていては本当にこの樹海事態が駄目になってしまうかもしれない。


「五人一組、そして魔法使いの随行。陣形を組める編成で、恐らく退避を強く意識した編成だ。パーティーの損耗状況に合わせて、魔法使いは“退避魔法”を発動させるだろう。もしくは魔法使い自体が倒れれば、“退避魔法エスケイプ”を発動させて一党をすべて樹海へ出すそうだ」

「だったらその魔法使いを倒せば手っ取り早いのだな?」


 冒険者として心得があるベラは、明解な言葉を口にする。


「ああ、その通りだ。さすがだな」

「えっへん! 僕はさすがなのだぁ!」


「では要領を説明する。仮に西の端から進行してきているパーティーを1と数え、最も東に位置するものを7とする。まずはラフレシア、君は東の1、2、3に姿を見せ、彼らを敵を誘い……」


「貴様! それはお嬢様に囮になれということか!?」

「待ちなさいマタンゴ」


 マタンゴを制して、ラフレシアがクルスを見やった。


「悪かったわね、続けて。それで私は姿をみせてどうすればいいの?」


「奴らの目的は君が寄生しているセシリー=カロッゾの身体だ。だから君はあえて姿を見せて敵を引き付けてもらいたい。更に“誘因臭気”を使って、この地点へ誘い込んでくれ。そしてそこに待機していたマタンゴが敵を一網打尽にする。どうだ?」


「なるほど。確かに“そこ”に敵を集められればマタンゴ一人でも、魔法使いのみにターゲットを絞れば行けるわね、となると次は東の4、5、6、7を“ここ”へ誘い込めばいいのかしら?」


 ラフレシアはクルスの考えていた地点を指さした。この頭の回転の速さはラフレシアのものなのか、はたまたセシリー=カロッゾの身体が元々持ち合わせて実力なのか。とにもかくにも、クルスは頼もしさを覚えた。


「その通りだ。しかし正確には4を覗く連中だ。ここではベラが待機。敵が集結したのと同時にバインドボイスを放って、敵を壊滅させる」

「ほうほう、なるほどなのだ! 面白そうなのだ!」


 ベラもクルスの考えを理解し、声を上げた。


「恐らくこれで敵の大半は戦闘不能にできるはずだ。その間に俺は4のパーティー、つまり敵の主戦力である“勇者パーティー”を足止めする。しかし俺一人では彼らを止めることはできない。なので、他の敵を排除後、速やかに集結し、勇者パーティーを一気に叩く! ロナ、君には申し訳ないが常に樹海の全域に神経を張って、状況を逐一報告してほしい」


「わかりました! 任せてください!」

「これが俺の考えだ。皆、どうだ?」


 クルスの問いにロナもベラも、そしてラフレシアとマタンゴも異を唱えなった。

どうやら承認してくれたらしい。


「ありがとう。俺たちの戦力は、敵に比べて圧倒的に少ない。だからこそ確実に“魔法使い”の排除を優先する。そのことだけは忘れないでほしい」

「了解よ。うふふ、楽しそうじゃない」


 ラフレシアは妖艶な笑みを浮かべ、


「とりあえず貴様の案通りに動いてやろう。しかし少しでも妙な真似を見せたら切り捨てる。そのことだけは忘れるな」


 マタンゴはぎらついた視線でクルスを睨む。


「よし! 始めるぞっ!」


 クルスの一声で、森の怪人たちは飛び出してゆく。


 ここに樹海を守るための戦いの火ぶたが切って落とされたのだった。

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