第27話 体育祭

 ゴールデンウィーク明けですぐに来るのは体育祭だ。

 こういうイベントでつらいのはグループ分け。

 小松たちがいないとはいえ、誰と話すということもない俺には居心地が悪い時間。

 大抵こういう場合、最後に人数が足りないところへ補充されるという感じだ。


 体育祭当日、俺は学校を休む。

 体育祭だけではない。こういうイベントを俺は毎回休んでいる。

 そのために俺は、普段は極力休むようなことはしてこなかったのだ。


 周囲の迷惑とかを考えないわけではない。

 だけど俺一人がいないからといって、支障が出るわけじゃない。

 他の奴が代理になるだけ。

 大抵代理になる奴は、俺よりも他のメンバーと良好な関係を築いているような奴だ。

 その方が全体で考えた場合明らかにいい。


 それに、ボッチの俺にはみんな関わろうとしてくることはない。

 イジメを止めるのは難しいから、俺は見て見ぬ振りをしていないで止めてくれとも思わない。

 その代わり、こういうイベントで俺が欠席したとしても問題はないはず。

 こういうときに迷惑とかなんだと言ってくるような奴がいるのなら、なぜこういうときだけ関わろうとするのか問いたいところだ。

 それならイジメも迷惑だから止めてくれ。


 なんてことも少し思ってしまう。

 まぁ、こんなのは思っても精々半分くらいのところだけど。

 だけど今年は、本当に俺は休みだ。珍しく体調を崩した。

 本当はテスト勉強と息抜きで執筆とか考えていたのだが、ここ最近問題が立て続けにあったからか、それともイジメが解消されて気を抜いてしまったからか体調を崩したので身体を休める他ない。


 テーブルの上には市販の薬とレトルトのお粥が置いてあり、冷蔵庫には母さんがコンビニで買ってきたスポーツドリンクと、栄養補給と謳われている飲むゼリーが入っていた。

 一般的にはレトルトのお粥を用意していくなんて、母親としていいとは言えないと思う。

 だけど現実問題として朝は時間がないし、母さんは大手の化粧品会社の課長という役職に就いている。

 仕事を頑張っているのも俺のためというのは間違いなくあって、その上母さん一人で俺を育ててくれている。

 朝時間がないなか、買ってきてくれるだけでもありがたいことなのだ。


 薬は飲んでおかないといけないけど、どうもレトルトのお粥を食べる気にはなれなかった。

 しかたなくゼリーで栄養補給をして薬を飲むことにする。

 頭がぼぉーっとしていて、目が回っているような感覚。

 俺は熱を下げるシートを額に貼り、部屋に戻ってベッドに横になった。



 次に目を覚ましたときはお昼を回っていた。

 さっきよりは少しマシになっている気がする。

 相変わらず頭が重く、思考にモヤがかかったような感覚はあるけど、目が回るような感覚だけは引いていた。

 枕元にあるスマホを見ると、チャットアプリに相坂さんと浅野から連絡がきていた。


 体調崩したって聞きました。大丈夫ですか? ゆっくり休んでください、という相坂さんのメッセージ。


 先輩捜してもいないから、三樹先輩に訊いちゃいましたよぉ。

 体操服姿見せてあげますから、早く元気になってくださいね。

 浅野の方はメッセージと一緒に画像も送られてきている。

 なぜか体操服の裾を、両手で下に引っぱっていた。



 少しの間リビングで横になってTVを観ていると、また目が回るような感覚が出てきた。

 TVは観ているというより、とりあえず点けているだけで実際は観ていなかった。

 無音じゃないほうがなんとなくよかっただけ。

 また部屋へ戻ろうと立ち上がったところで、インターホンが鳴った。

 少し面倒だなと思っていたのだけど、一回では鳴り止むことがなかったので出ることにした。



「こ、こんちには」



 玄関のドアを開けると、そこには制服姿の三樹が立っていた。

 体育祭だったからか、カフェで執筆していたときと同じように髪をポニーテールにしている。



「本当に体調を崩しているのね」



 もしかして、三樹は俺がサボっていると考えていたのだろうか?

 だとしたら、三樹の考えは当たりだ。

 俺と同じように、体調を崩したのが想定外だっただけということになる。



「随分顔が赤いよ? 大丈夫?」


「ちょっとまた怠くなってきた。だから悪いけど――」


「熱は?」


「あ~、そういえば計ってない」


「お邪魔させてもらうね? 真辺君はベッドに戻って」



 三樹が俺の手を引き、俺たちは家の中に入った。

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