第47話
アルマはエリシアとアヌビスに接触し、彼女達から村の中で何か問題ごとや不満が起きていないかを確認し、次にホルスに頼んで《魔法袋》の中身を整えてもらった。
クリスの伸び掛けてきた尾を切り取り、魔石としてホルスに預ける。
それから自身の魔力の限りアイアンゴレームを量産し、エリシア達から聞いた村人達の話を元に、井戸や外壁の工事、それから農地の拡大を行った。
また、ホルスの持つ《鶏成長促進》と《卵発生率強化》によって村内の鶏の数が増え過ぎていたため、鶏小屋の拡張も行った。
この間、僅か二時間であった。
課題が解消された後は、警備用のアイアンゴーレムをハロルドに言われた案に則って再配置した。
これはハロルドが過去の魔物の襲撃例を参考に、最も村の守りが堅牢になると考えた配置であるようだった。
細かく配置の意味についての説明も書かれていたが、確かに破綻は見当たらなかった。
最後に手の空いているアイアンゴーレムを用いて、線路の拡大を行った。
アイアンゴーレム達は、村の外の地面を均し、線路を敷いていく。
「……アルマ殿、この線路はどこへ繋げるつもりなんだい?」
作業の視察に来たハロルドがアルマへと尋ねる。
「この村から、ミーア達の村……前にアンデッド騒動があった村へと繋げる。色々と運ばないといけない物資があるからな。俺が戻って来るまで、どうせ数日掛かる。帰ってきたらなるべく速攻で向こうの村にまたいかないといけないから、それなら俺の不在の間に線路を用意しておいてもらおうと思ってな」
アイアンゴーレムの作業効率であれば、物資さえ続けば数日の間に向こうの村とこちらを繋げることも不可能ではないはずだった。
無論、完全な村の外にレールを敷くのだ。
魔物の妨害が何度も来ることだろう。
だが、平原に現れる程度の魔物であれば、アイアンゴーレム集団には手も足も出ないはずであった。
最終的には線路内に魔物が入り込まないよう、柵や《タリスマン》も設置させる予定である。
「は、はあ……なかなかぶっ飛んだことをするね、アルマ殿は……。僕にはもう、規模が大きすぎて今一つわからないよ……。でも、アイアンゴーレムは単純な作業しかできないのだろう? ゴーレムの指揮を行う人間が必要なのではないかい?」
「俺の代理の現場監督を置く必要があるな」
「……いるのかい、代わりの人間は? 悪いけれど、僕にはこういった技術のことは今一つわからないし、それにこう見えて結構忙しいから、あまり手伝うことはできないかもしれないよ。エリシアさんも、結構君のために動き回ってくれているよ。少数ではあるけれど、村の中には、まだ村の急な変化や、君の力を怖がっている人間がいてね。そういった人へ誤解を解いて回ってくれているんだ。長時間村の外に出てくる猶予はあまりないかもしれない」
「大丈夫だ、代理はもう決まっている」
「あれ、もう話はついているのかい? それは……」
黄金の鶏ホルスが、アルマの横で背伸びをして胸を張った。
『アルマ様、私めにお任せを! アルマ様不在の間は、私がアイアンゴーレム達を指揮してみせますぞ!』
ハロルドは少し屈み、ホルスと目線を合わせる。
「……えっと、君、本当にゴーレムの指揮ができるのかな?」
『なっ! アルマ様に仕事を任された私の力を疑うとは、失敬でありますぞ!』
ホルスがバタバタと黄金の翼を羽搏かせる。
「ご、ごめんね……」
ハロルドは謝りながらも、一層不安げに眉尻を下げていた。
「ハロルド、こう見えてホルスは、村の中で俺に次いで錬金術への理解が深いぞ。ゴーレムの細かい性質も理解している。資材の管理も行ってくれているから、正直任せられるのはホルス以外にいないくらいだ。効率は落ちるが、ホルスに任せている家畜の管理や統率は、一時的に他の村人に任せてしまっても問題はない。時計塔や資材の管理の仕事もあるが、ホルスは容量がいいから、それくらいならば並行して熟せるはずだ」
「そ、そうなのかい?」
ハロルドはちらりとホルスへ目を向ける。
ホルスは気障っぽく気取ったポーズを取りながら、アルマへと頭を下げた。
『アルマ様にお褒め預かり光栄でございますぞ! アルマ様が帰ってくるまでに、必ずや開通させてご覧にいれましょう。ただ、地図を見て計算したところ、《タリスマン》が少々足りないかもしれません。時間が許すのでしたら、そちらを造っていただければと』
「なるほど、わかった。確かに、ちょっと残量が怪しい。出発前に、《タリスマン》を急いで造れるだけ造っておこう」
『ありがたく存じます』
ハロルドはホルスの様子に、目を瞬かせる。
「う、うん……。確かに、ゴーレムの指揮を任せるのに適任そうだね……。驚いたけれど、確かに君は、アルマ殿の最大の秘書のようだね」
少し腑に落ちないらしい様子ではあったものの、ハロルドはホルスの力量に納得が行ったようであった。
『わかっていただけたようで何よりでございますぞ』
ホルスが誇らしげに胸を張る。
メイリーはやや不機嫌そうに、じぃっとホルスを睨んでいた。
「……ボクの方が、主様の役に立ってるのに」
「適材適所だ。小難しいのは好きじゃないだろ? それにお前、任せたら任せたで、絶対俺が見ていないときにサボるだろうに」
『私から見れば、メイリー殿の方が羨ましいですぞ! アルマ様が都市へ向かう際、同行なさるのでしょう? 留守を任されるのも光栄ではありますが、私も欲を言えば、一度はアルマ様の遠出のお供として付き添いたいですぞ』
ホルスがバタバタと激しく翼を開閉する。
金の羽が舞った。
「ううむ……まあ、また機会があったら考えておく。今の村は、まだまだ発展途上でごちゃついているからな」
『おおっ! 本当でありますか! このホルス、そのときを心待ちにしておりますぞ!』
「……主様の横は、ボクの位置なのに」
ホルスとアルマのやり取りを前に、メイリーが少し拗ねたようにそう零した。
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