第40話
アルマとメイリーは村を歩き、探索を続けていた。
時折マンフェイスが寄ってくるが、メイリーが素早く爪を振るって叩き潰していく。
「うげぇ……主様、ボクの爪、汚れた」
メイリーは嫌そうに爪を振るう。
「……しかし、やっぱり異常なマンフェイスの数だな。こりゃあいよいよ持って、人災だな。この数のマンフェイズが自然発生して一つの村を襲うっていうのは、いくらなんでも不自然すぎる」
そのとき、近くの家屋から少女の悲鳴が響いた。
「生存者だな、向かうぞ」
「ワザとらしい……。ボク、罠かなって思うけど」
「罠でも、放っておくわけにはいかんだろ。そろそろ蜘蛛潰しにも飽きてきたし、相手の拠点の位置があるのなら知っておきたい。相手さんのご自慢の罠がどの程度のものか、見てやろうじゃないか」
アルマは家屋の扉を蹴破り、中へと入った。
部屋の隅に大きな箪笥があり、半開きの扉の奥に一人の少女が腰を抜かしていた。
ボブカットで目がぱっちりとしており、十四歳前後の外見をしていた。
少女はアルマを見て一瞬安堵したように表情を緩めたが、すぐに大きく首を振った。
「おっ、お兄さん、こっちに来ちゃ駄目ですっ! あの蜘蛛が……!」
部屋の色々なところが開き、三体のマンフェイスが姿を現した。
続いて天井を破り、全長二メートル近い大型のマンフェイスが落ちてきた。
アルマが背後へ目をやると、扉からマンフェイスが入ってくるところだった。
「に、逃げてください! わっ、私、きっと、お兄さんを誘き出す餌にされたんです!」
一体のマンフェイスが飛び掛かってくる。
アルマはその額に鍬を打ち込み、身体を引き裂いてやった。
「古典的だな、結局蜘蛛潰しか」
大型のマンフェイスがアルマ達へと直進してくる。
メイリーは翼を広げ、その場で大きく宙返りをしながら大型のマンフェイスを蹴り飛ばした。
マンフェイズの顔面が大きく抉れ、軽々と飛んでいき、勢い余って壁をぶち抜いた。
この場に残るマンフェイス達の動きはその場で硬直した。
すぐに再び動き始め、大型マンフェイスが壁に開けた穴から外へと逃げようとする。
だが、メイリーが素早く穴の許へ飛び、爪撃を放った。
複数のマンフェイス達が一瞬にしてバラバラになっていく。
「残念だったな、お前らは狩人側じゃねぇんだよ」
「す、凄い……」
ボブカットの少女が箪笥の扉に手を掛けながら、呆然とそう零した。
アルマは彼女を保護し、《魔法袋》より水とパンを取り出して渡した。
少女はミーアという名であった。
逃走中に唯一の肉親である母と離れてしまい、この家を隠れ家として借りていたようであった。
これまでまともに飲まず食わずで数日間隠れていたようであった。
「アルマさん……お母さんが、きっとまだこの村にいるはずなんです。二日前に、ここの外の路地で逸れたんです。お願いです、お母さんを助けてください!」
ミーアが涙を流しながら頭を下げる。
アルマは口を閉じ、ミーアを見つめながら思案する。
『……アルマよ、その母親とやらは、既に殺されているのではないか……?』
クリスが《龍珠》より、言い辛そうにそう零した。
アルマは目を瞑り、逡巡する。
ミーアは縋るようにアルマを見つめる。
「……わかった、ミーア。これまでよく、頑張って生き延びたな。お前の母親は、絶対に俺が助け出してやる。だから、安心しろ」
アルマはミーアの頭に軽く手を乗せ、そう口にした。
「ほっ、本当ですか、お兄さん!」
ミーアは涙を止め、表情を輝かせた。
『……安請負いしていいことではなかったであろうに。よいのか、アルマ? そんな残酷なことを口にして』
クリスがアルマを非難する。
「お前、案外子供には優しいんだな」
アルマは微笑みを浮かべ、ローブに仕舞った《龍珠》を軽く人差し指で撫でた。
『フ、フンッ! 貴様があまりに考えなしのことを口にしたため、引っ掛かっただけである』
「大丈夫、主様は、できないことを言い切ったりはしないから」
『……しかしメイリー様、我にはこの村に、この娘以外に他に何人も生き残りがいるようには思えんのだ……』
ミーア自体、敢えて泳がされていたような節があった。
恐らく好きなタイミングで脅しを掛けて悲鳴を上げさせ、助けを呼ばせるための餌として生かされていたのだ。
無事に村から逃げられたレンデンも、わざと逃がされたような節があった。
恐らくは利用価値のある人間を数名残していただけなのだ。
これだけの夥しい量のマンフェイスはアルマも初めてであった。
村人がとっくに全員ゾンビにされていても、おかしくはない状況であった。
「ウチの村まで逃げてきたレンデンから、この村には魔物災害に備えた地下の避難壕があると聞いている。ミーア、そこの場所がわかるか?」
「は、はい、わかります。ただ、途中の道には、あの蜘蛛がいて……」
「大丈夫だ、あの蜘蛛は俺達に任せろ。この《聖水》がある限り、ゾンビになっちまった村人も、俺達には近づけない」
「わかりました、案内します! お母さんも、きっと、無事なら地下洞窟の方にいるはずなんです。そこくらいしか、安全なところがないから……」
メイリーがちょんちょんと、アルマの肩を突く。
「どうした、メイリー?」
「ねぇ、主様。ただの魔物災害じゃなくてアンデッドを嗾けた人間がいるなら、避難壕を何日も見逃してくれるとは、ボクには思えないんだけど……」
メイリーがミーアに聞こえないように、小声でそう口にする。
「だが、無事かもしれない以上、放置してもいられないだろう。今は他に、手掛かりもないからな。できることからやっていくしかない」
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