第24話

 アルマは外壁の建造が一通り終わった後、拠点でエリシアと顔を合わせていた。


「お疲れ様です、アルマさん。外壁の作業、もう終わったのですね! アルマさんのことだと、私もそうそう驚かなくなってきました」


 エリシアが苦笑しながらそう漏らす。


「……ま、あんな外壁、この世界の悪意の前じゃ、ないよりマシって程度だけどな。今の俺には、圧倒的に資材が足りない。正直、現状でできることが少なすぎる」


「そんな、ご謙遜を。アルマさんでできることが少ない、なんて……」


「事実だ。錬金術師は資材あってこそのものだ。技量や知識があっても、必要な材料がなければ無意味だからな。だから俺は、資材の蓄えが欲しい」


「なるほど……? つまり、アルマさんはどうするおつもりなのでしょうか?」


「ダンジョンへ採掘に向かいたい。ここの近くには、《ゴブリン坑道》と呼ばれるダンジョンがあるらしいな。エリシアなら、向かったことがあるとも聞いている。案内してもらっていいか?」


 ダンジョンとは、マジクラにおいては魔物の巣窟と化した地のことであった。

 多くは洞窟のことであるが、地下遺跡や、人が住まなくなり魔物の溜まり場となった廃都市を示すこともある。


 魔物は魔力に惹かれる性質を持つものが多い。

 ミスリルやアダマントのような高価な鉱石は高い魔力を有しており、一部の魔物を引き付ける。

 そのため、高価な鉱石が眠っている地ほど、強力な魔物が潜んでいることが多い。


「そういうことでしたら、是非お手伝いさせてください! ……ただ、昔向かった際には、浅い部分で少し採掘を行ってすぐに撤退したので、中の案内はできそうにありません。高価な鉱石を得られれば、村が少しは裕福になると思ったのですが……」


「ダンジョンは、そこらの平原とは危険度は大きく異なるからな。ちょっと遠出するのとはワケが違う」


 エリシアはアルマが最初に会ったとき、小鬼の群れに襲われて窮地に陥っていた。

 外を出歩いていてあの規模の魔物に目を付けられるのは不運であったといえる。

 しかし、ダンジョンの中では、そのくらいの魔物の群れの襲撃は、当たり前のように発生する。

 ダンジョンは本当に危険なところなのだ。


 ……もっとも、熟練のマジクラプレイヤーの中には、ダンジョン奥地に平然と仮拠点を築いて何十日も籠って資材を集め続ける猛者もいるのだが。


 アルマ達は準備を整え、早速出発することにした。

 無論、今回もメイリーは連れていくこととなった。

 力仕事はメイリー頼みが一番であるし、《ゴブリン坑道》にどの程度のランクの魔物が出てくるのかも定かではないのだ。


「頑張ってきてください、アルマさん!」

「俺は腕に覚えがあります! 人手が足りなければ言ってくださいね!」


 出かける際に、十数人の村人が出迎えに出てきてくれた。

 アルマは手を振り、彼らに反応を返す。


 そのとき、村人達を掻き分け、金色の鶏が飛び出してきた。

 無論ホルスであった。


『アルマ様! 何故、何故このホルスめを置いていくのですか!必ずやお役に立ちます! 是非お供させてくだされ!』


 ホルスはアルマの目前で脚を止め、顔をぺたんと地面につける。


「ホルス、戦闘も採掘もできないんじゃないの?」


 メイリーが屈んでホルスへ声を掛ける。


「そっ、そんなことはありませんぞ、メイリー殿! それなりに戦える自負があります! 採掘は……よくわかりませんが、熱意は充分にありますぞ!」


 ホルスが顔を上げ、ばさばさと翼を動かす。


「連れて行ってやりたいのは山々なんだが……錬金工房のことや、素材の在庫、俺の仕事の進行を細かく把握できてるのは、エリシアとホルスだけだからな。俺が不在の間に、錬金術のことでハロルドから何か尋ねられたり、村人から急ぎの用事で泣きつかれることもあるかもしれん。それに、ホルスなら村に魔物が入り込んだときの対処も行える。悪いが、俺の留守を任されてくれ」


 それにホルスが村にいるだけで、ホルスの特殊なスキルによって、村全体の鶏の成長が促進され、卵の発生率も跳ね上がるのだ。

 そういう面でも、ホルスはなるべく村に残っていてほしかった。


「アルマ様にそこまで言われましたら、仕方ありませんな! アルマ様の留守は、このホルスにお任せくだされ!」


 ホルスが得意げに胸を張った。


「……ねぇ、もしかして主様、ボクよりホルスを頼りにしてない?」


 メイリーがジトッとした目でアルマを見る。

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