第61話:敗者の憎悪と悪魔の妙案

最近の私はリヒターの匂いを嗅ぐ事で得られる高揚感を味わう事が楽しみだ。

夜な夜な学校へ忍び込み、彼の体操着や彼の使う筆記用具等を拝借している。

彼の匂いはとても心地いい。

暖かく、深みがあって、それで少し甘さもある。

そんな彼の独特の匂いを嗅ぎ、幸福感を味わう。

いつも私は思っている、もし本物の彼が常に隣に居たらと。

彼の肩に頭を乗せたり、手を触れたり‥キスをして、それから‥

そんな妄想をしながら、私は彼の着た体操着の匂いを嗅ぐ‥


私は彼の物を楽しみを終えると、隠れ家へと帰る。

そこは、レナードの屋敷にある地下室だ。

レナードは良い道化だった、私に惚れているから扱いやすい。

ちょっとその気にさせれば彼は何でもやる。

この前、やっと悪魔契約をして変わった自分に更なる自信を付けていたわ。

あの敗北以降、彼は男としての自信を失った。

まぁ、あれだけ酷い目に遭えばそうなるわ、学校内でも笑い者にされ女性からも軽蔑され、今までカーストトップに居た男が一気に落ちたのだから、当然よ。

そんな彼を励まし、上手く付け入った。

最初から彼は駒として使うつもりだったの、彼は予想以上に復讐心は強かった、あの女達にだ。

彼はあの2人を屈服させて、俺の奴隷にすると息巻いている。

男としての尊厳を取り戻したいのだろうけど‥やり方がダサい男だわ。

そんな小さな男が私を好きだなんて‥どうしようもない男。


私達はステークホルダー


そんな関係よ。

彼には私を与えるつもりは毛頭ない、私の全てはリヒターの物なのだから。


私は翌日の朝、ある日課を楽しんでいた。

リヒターが前日何をしていたのかを確認する日課だ。

彼の声が聴けないのがネックだけど、彼の行動を見る事が楽しみなのだ。


私が彼の監視用にゾンビカラスを常に付けていた。

彼が何処で何をしているかを記録し、そのカラス私の元へと戻し、殺す。

そのカラスの情報を私が吸収し、その情報を私が見るのだ。

それは私にとって‥強い殺意を再確認する事と唯一の癒しだった。

彼の近くに居る女共を見るとイライラする、私の席を奪った女共をどうやって殺すかをいつも考えている。


私がこの殺意を感じる事がモチベーションに繋がっている。

あのクソアマ共は私のリヒターを穢す、それが耐えられない程の屈辱を感じる。

あいつ等がやる事はこうだ‥


銀髪は彼が寝静まると必ず彼の部屋に入り、ベッドに座り彼を見つめる。

そして彼の顔や頭を汚い手で撫で下品に微笑み、彼にキスをして部屋を去る。


腸が煮えくり返る‥そんな気持ちを理解する。

あの言葉が未だに頭から離れない‥


「あの激しいキスの時の様な男の顔」


あいつは私のリヒターを穢した、私の知らないリヒターがある事も許せない。

私と彼との最初の記念となる物を奪った、だから、あいつは絶対に苦しめて殺す、泣いて詫びても関係ない。


金髪は朝になると彼の部屋へ入り、彼を起こしに来る。

この金髪は彼を起こす為にベッドへと忍び込み、耳元で何かを囁いているのだ‥

その囁きに目を覚ますリヒターは必ず慌てる。

そんな姿を見て笑みを浮かべる金髪‥

私はこのシーンを見たくはない、だが記憶を飛ばす事が出来ない。


だから私はあいつ等がやる事を毎日みている。

私が求めていた事をこいつらはやるのだ。

だから、ムカつく‥早く力を、あいつらからリヒターを取り返したい。

あいつ等が如何に罪深いか‥早く思い知らせたい。


でも、リヒターは昔と変わらない、枕に抱き着いて寝る癖や寝相の悪さ、体を洗う時は腕から洗う癖等‥私が知っている彼が変わらない部分を見て安堵する。

彼の悪い所は、変な所が雑な事だ。

自分の服は畳まないで、ポイポイ衣装入れに入れたり‥

本の位置がいつもバラバラだったリ‥

髪も乾かさない、いつか禿げるかも知れないのに‥

変わらない彼を見る事は癒しだ、あの笑顔を私だけに向けさせる。


その為に私は多大な犠牲と時間を費やしここまで来た。

あれからずっと私は実験と非道を積み重ねた。

生きた人間をゾンビ化させたり

動物同士を合成したり

死霊を呼ぶ為に墓を荒らしたり‥

何でもしてきた。

そして遂に目的としていた能力を幾つか手に入れた。


そんなある日、リヒターは大人数で何処かへと向かって行った。

この日の彼は忙しかった、外に出て買い物へ行ったりし、朝方まで煙が立っていた。

多分食事をしていたのだろう‥

そして、翌朝、彼らは森へ行き、突然消えたのだ‥


「リヒターが消えた?!」


突然の事で私は驚き、声を出してしまった。

私は急いで彼の消えた森へと行き、現場を見た。

魔法陣が描かれているけど、これが何を意味しているのかすら分からない。

ガミジンに聞いてみた。


「ガミジン、これが何か分かる?」


「転移用の魔法陣だ、場所は…精霊界と思われる」


「ふーん‥」


「精霊界へ乗り込むつもりか?」


「ええ、当然よ‥リヒターを助ける為に」


ガミジンは突然笑い出した。


「小娘、本当にお前は狂っているな、精霊界に行けば我等は殺されるぞ?精霊にとって悪魔は敵だ」


私はムカついた、こいつは何でも知っている様な口ぶりで時々その言い方や言っている事が気に入らない。

だが、今はこいつを頼るしかない。こいつを利用してあの女共を殺し、リヒターを取り返す。


「‥じゃあどうしろと?」


ガミジンは珍しく笑みを浮かべた。


「小娘、良い案がある、心して聞け」


私はガミジンが悪魔で有る事を再認識した。

こいつは良い案だと直感し、直ぐに屋敷へと戻った‥

フフフ‥楽しみだわ。

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