第37話:鬼教官になったレイ、でもやっぱりレイはレイ

翌日、ギルドへ行くとエステルが待っていた。


エステルは神妙な面持ちで僕達に教えてくれた、グローザのボスについて。


「グローザのボス、ヨシフ・ムガベについてだ…奴はリヒターと同じ様に2種類の属性を持つ男だ、使う属性は火と水だ。不思議な事にこの二つの属性を同時に使い、魔法を使われた相手は、塵も残らず死ぬとか…」


「それはかなり恐ろしい相手ですね…」


「ええ、私個人としては、リヒターには戦って欲しくないが…」


するとレイがこんな事を言い出した。


「それなら、1週間リヒター君を個人レッスンしてみない?2日間二人っきりでさ、そしたらリヒター君強くなるし、私達としても二人きりなんて最高よね?」


部屋に居た女性陣に電流が走る。

僕は稲妻が脳に落ちた気分だった、これから起こる出来事は…きっと…

合法的に二人きりになれると言う訳で、皆の目が怪しく光りだした…


「良いアイディアだ、レイ。今回の1番目は譲ろう、私は最後で良い」


「確かに…私達がリヒターに教えれば強くなる…では私は2番目を」


「ふふふ、じゃあリヒター君、早速レッスンしようね!」


そう言ってレイが僕の腕を掴み、部屋から出て行った。

部屋を出ると、レイは魔法で僕達だけしか居ない空間を作り出し、

2日間の間ここで過ごす事を言った。



「リヒター君、今日から私は鬼教官になります、スパルタです」


「突然何…レイ?」


「上官を名前で呼ぶな!語尾にマムを付けろ!」


「は、ハイ…マム」


「宜しい、では訓練を始める!」


流されてしまったが、突然訓練が始まった。

レイはいつ着替えたのか分からないが、軍服を着ていて、完全に役になりきっている…


「リヒター!お前はヒヨッコだ!戦闘経験が皆無だ!さぁ!こいつと戦え!」


彼女は「マス・アフターイメージ」と言うと、突然彼女からもう一人の彼女が横に移動し、彼女の分身が現れた…


「リヒター!これが私が伝授する魔法だ!だが今のお前では使いこなせないのは確実だ!よって、この分身と戦い勝つまでやれ!」


「…イエス、マム」


こうして分身と戦う事となったのだ、今まで人と戦った事が無い僕はどうしたら良いのか分からない。

取り合えず、ガードが出来る様にブラインドガーディアンだけを出し、対応出来る様にはしたのだが…

分身はその場で光の針の様な小さく尖った物を飛ばしてきた。

反射的にブラインドガーディアンで盾を作ったが、驚く事に貫通した。


「?!」


「魔法に甘えるな!ヒヨッコ!属性の優劣も知らないとは言わせんぞ!」


属性の優劣。

簡単に言えばすくみの話だ。

火は水に弱く、闇は光に弱い、しかし光は闇に弱い。

お互いが相性が最悪なのだ。

此処まで優劣が出るとは…そんな事を思いながらブラインドガーディアンからナイトフォールへと変え、斬撃を見舞うが分身は華麗に避ける。


「馬鹿か!そんな隙の多い行動で敵を殺せると思うな!この三流!」


凄い言われようだが…確かにそうだ。

あの分身は早い、行動を制御出来れば当てれるはず…

そう思いナイトフォールの一部を地面に落とし、分身の影へと移動させこう唱えた「デビルドッグス」と。


影に紛れた黒い物体は、黒く赤い目が印象的な凶暴そうな犬となり、分身の背後から接触の様な尻尾を伸ばし、分身の体に絡みつく。

後ろからの攻撃に予想していなかったのか完全に動きを封じ込めれた。

それを見たレイ…いや、マムは拍手していた。


「良いぞ!相手の痛い所を突く事が重要だ!そして、此処からはレイとして話す!」


そう言って咳払いをするマムは…


「も~リヒター君のエッチ、そんなイヤらしく体に張り巡らせるなんて…リヒター君そう言うプレイに興味があったの? 痛くしないなら…」


冷静に考えてみれば…確かにイヤらしく見える…


「ご、ごめん!そう言うつもりじゃ…」


するとレイはニヤリと笑い、鞭を足に絡みつけ投げ飛ばした。

予想外の攻撃に僕は反応する事が出来ず地面へと叩きつけられた。


「このヒヨッコが!油断をするな!敵はあの手この手でお前を油断させる!戦場では死んでいたぞ!」


これが僕が最後に覚えている彼女の言葉だった。


目覚めると、僕はレイの膝枕で目覚めた。

いつもの様に優しい笑顔でそっと頭を撫でてくれた。


「ごめんね、リヒター君。お姉さんは心を鬼にして教えてたの…本当は傷付けたくなかったの、でもね…決闘でもしリヒター君が傷ついたり死んじゃったりしたら…そう考えたら私は…」


そう言って泣き始めるレイ。

彼女の涙が頬から、僕の顔に落ちる。

そっと手を伸ばし、彼女の涙を人差し指で払った。


「泣かないで、レイ。大丈夫。例のお陰で新しい魔法が作れたし、強くなってると思うよ、それに僕もレイとこれからも一緒に居たいからこうやって厳しく教えてくれる事が助けになってるよ、ありがとう、レイ」


そう言うと、レイは笑顔となった、彼女の笑顔は本当に癒される。

そんな雰囲気の中、レイはマムへと突然変わった。


「よし!ヒヨッコ!次はマス・アフターイメージを使いこなす訓練だ!立て!お姫様タイムは終わりだ!」


この後僕はきつく扱かれたが、3つ目の新しい魔法を覚えた。

だが…レイの鬼軍曹は止めて欲しい…

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