第15話:『敗者』となった女の話

私の名はウォルス・ハービィ、18歳の女よ。

父は有名な魔法使いだった、有名なカンパニーに所属し隊長を務めていた。

母は美人で周りからは花の様な美しさと儚さがあると言われる様な人だった。

私は…そんな父と母の能力を全て持った、完璧な人間。

水属性の魔法を使い、美貌も相まって、学校内では有名だ。

…だから誰も私に逆らわないし、私はやりたい事が出来ていた。

と言っても、気持ち悪い貴族連中に言い寄られるのは困ったけど、有名税みたいな物と思って我慢していた。

そして私には既に心に決めた男が居た、それがリヒター・ウェインだ。


彼は私の幼馴染だ、彼は少し気が弱い所が有ったけど、優しくて顔もソコソコ良くて、父の部下の息子だった。

初めて会った時、彼は私に声を掛け一緒に遊んでくれた。

その時から、私は彼とずっと一緒に過ごした。

幼稚園、小学生、中学生…そして高校。

クラスは別れても、彼は必ず私に会いに来てくれた。

ずっと一緒に過ごしてきて、私は彼に好意を抱いていた。

きっと彼も私の事が好きだったんだろう。

でも…彼は変わってしまった。


彼が失踪して5日、私はずっと彼を探していた。

川の周りを探したり、森の中を延々と探した。

でも…彼は見つからなかった。

私は後悔していた、あの時私が水が飲みたいと言わなければ…と。

彼が帰って来た日、私は夜まで彼を探したが、何も進展が無かった。

彼は家に帰っていないかと思い、彼の家に行くと、声が聞こえた。

忘れるはずもない、リヒターの声が聞こえたのだ。


私は勢いに任せて彼を怒鳴ってしまった。

寂しかった、心配した、ごめんと言いたかったけど…

私はそれが言えなかった。

何故なら…彼の周りに女が二人も居たからだ。

私は彼女達に敵対心を持ち、馬鹿にした。そうすれば退くと思ったからだ。

でも…それによってリヒターは珍しく怒った。

そして…嫌いだと言われた…

更に不幸な事に私はより深い絶望に落とされた…

彼が穢された事を知った…私とが初めてする筈なのに、あいつに奪われたのだ…


私はあの二人を許さない、あいつ等が彼の近くに居る様になってから、愛し合う私と彼の関係が壊れたのだ。

毎朝、彼は私の為に迎えに来てくれた。

おはようと言って、荷物を持ち、私の小言をニコニコして聞いてくれる。

毎日彼は私の為に尽くしてくれた、それが彼の喜びなのにだ。

私は彼により一層努力して欲しくてずっと小言を言い続けた。

魔法が出来ないから能無し、でも魔法以外で得意な事や誰にも負けない何かを見つけて欲しい気持ちで言っていた。


それなのに…あの女達に彼は毒されたのか、私を拒絶する。

あの時、私は焦っていた、彼が魔法が使える様になり、周りの女がリヒターを放っておくはずがない、2属性が使えるだけでも優秀なのに、希少な属性を使うとなれば、一瞬でスターの扱いだ。

彼に群がる雌犬共は許さない、だから彼と二人で話し合おうと考えていた。

けれども、彼は私を疎ましく思ったのか、冷たかった。

私は直ぐに謝った。やり過ぎたと思ったし、彼が心配でずっと探していた、夜も眠れずずっと彼を想っていた、私の気持ちを彼にぶつけた。


でも…それを聞いた彼は急に吐き出し、白い奴が彼に触れていた…触って良いのは私だけなのにだ。

黒い方はギャーギャー言ってたけど、愛には色んな形があるのを知らないみたいね。

私は退いた、今はまだその時では無いと思ったからだ。

悔しさと悲しさを感じていたけど、我慢の時だ…


私は父に頼んで、リヒターを父のカンパニーに入れて欲しい事を頼んだ。

父は任せろと言って、手を回してくれたのだが…、その時から父は代わってしまった。突然叫びだしたり、何かに怯えたり、精神に異常でも有るのかという位おかしくなったのだ。

それが切っ掛けで、父は仕事を辞めた。


あれからだ、全てが変わってしまったのは。

父さんは仕事を辞めて、家に引きこもり。

母さんはそんな父さんを捨てて出て行った。

私は…リヒターの後を追っている…毎日遠くから彼を見つめて、彼が何をしているのかを全て見ている。

そうよ、私だけなの、彼を知っているのは。

彼の過去、彼の気持ち、彼の全ては私の物なの。

だから邪魔はさせない、どんな手を使ってでも彼を奪い返す。


「待ってなさい…あの二人は必ず消してやる…リヒター、貴方を助けるからね」

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