第10話:迫りくる魔の手…その名は勧誘

魔法が使える様になってから、僕は沢山の変化が有った。

まずは良い事から。


・2人の美女と毎日共に過ごす

・魔法が周りよりも強かった

・既に幾つかのカンパニーから誘いを受ける


大きな変化はこの3つだ。

だが、変化が起きれば悪い事も有る…いや、寧ろ悪い事の方が多い…


・不幸の手紙や藁人形が必ず下駄箱に入っている

・男子から徹底的に目の仇にされている

・ウォルスがストーカーへと進化した

・先輩に絡まれる

・勝手に友達が増える

・勧誘のお断りに時間を食う


おかしい、普通良い変化が有れば悪い効果なんて少ないはずなんだ…

だが…何で僕は不幸の方が増えているんだ?おかしいですよ…

そして今も…僕は…


「ですので、申し訳ないですが…カンパニーに入る事はー…」

「すみません、お願いします!何でもしますから!」

「ん?今何でもするって…」

「おっと、これ以上の勧誘は止めさせてもらう」


ベルベットが割って入った。


「すみませんね、彼は今から授業なので…ここで引いていただけると」


レイの顔は笑顔なのだが…その笑顔から凄いプレッシャーを感じたのか、勧誘した人はその場で帰ってくれた。

僕はあまりにも勧誘が多く、大分心に来ている…机に頭を乗せベルベットに問いかけた


「疲れた…もう何人目…」

「今日は12人だ、ベスト記録まであと2人だな」

「そんな記録更新は求めていないよ…」


ベルベットは淡々と答えてくれる…


「ねぇ、ベルベット、闇魔法で一時的に姿を消すとか無い?」

「それなら光魔法の方が良いぞ?闇魔法は基本的に相手を苦しめる事が前提だから、使うとしたら、『相手を消す』事か「相手を痛めつける」の二択だからな…誰か消したい時は言ってくれ、その魔法の言葉を呟けば…敵は死ぬ」


不気味な笑みを浮かべるベルベット、可愛い顔が台無しだ…


「ありがとう、ベルベット…死なない程度の魔法は聞くね…」


さて…何故カンパニーがこうも勧誘してくるのかと言う理由には来年の卒業がある。

優秀な人材をしっかりと確保する事が、カンパニーが長く生きる道。

そう言う考えが有って、この学校の生徒の一部はよく勧誘される。

裏では、学校がカンパニーに生徒の情報を売っている…と言われているが真意は分からない。


いずれにしても、僕の進路も考える必要があるのだ。

なんせ今まで魔法を使わない職業を考えていたが、今は使える様になって選択肢が増えた。しかし僕は何がしたいのかが分からない。

故に僕は次の冬休みの間、社会経験としてバイトをしようと考えている。

とは言っても…僕が出来る事はギルドで登録して依頼をこなす事なんだけどね…


こんな毎日を過ごしている僕達だが、ある日父さんから相談が有った。


「リヒター…ちょっと父さんと二人きりで話さないか?」

「え…何…僕お金なんてないよ?」

「おいおい、息子から金取る訳無いだろ…」

「え?この前父さん、家の裏で言ってたじゃん?『あの鬼嫁!何で俺の小遣いがこんなに低…』」


大事な部分を言おうとすると口を塞がれ、引きずられて家の裏手へ。

父さんは冷や汗をかきながら深呼吸をしている…落ち着いたのか、父さんは無茶なお願いをしてきた。


「リヒター…男としての頼みだ、聞いてくれ!」

「何?父さん」

「俺の働くカンパニーで働いてくれ!」

「えぇ…何で?」

「そのよぉ…上司からすげぇ言われちまって…」


父さんの上司、ドクトル・ハービィー。

水の魔法使いでそれなりに有名らしく、父さんの所属するカンパニーで隊長を務めている…そう、ウォルトは彼の娘だ…嫌な予感がする…


「へぇ …断っても良い?」

「断ると…父さん、首に…」

「えぇ…それってパワハラじゃ…」

「良いか…上司が『黒』と言えば、例え『白』でも下は『黒』と言わねばならぬ時がある…それが…上下関係の決まりだ、良いな?夫婦も同じだ、母さんが『やれ』と言ったら俺の答えは『はい』か『分かりました』の二択だ、良いな?覚えておくんだぞ…結婚は人生の墓場と言われるのは、これが理由だぞ」

「どこの独裁者ですか、それ…あ…、父さん…」

「ん?何だ、リヒター?」

「来世でまた会えたら会いましょう…それじゃ!」


僕はその場で逃げ出した、父さんは首を傾げているが…

僕には見えていたんだ、父さんの首を狩ろうとする後ろに立つ死神の姿が…


「あ~な~た~?誰が鬼嫁で私と結婚した事が人生の墓場ですって…?」


その後、父さんの断末魔の悲鳴が聞こえた。

翌朝の父さんは…言うまでもなく生きているのが不思議なくらいボロボロだった。

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