第零章
0-1
M:ただ、私はこの力を使って誰かのお手伝いをしたいだけ。
後は、何にもいらないの。
「胡桃ちゃーん!」
学校の授業が終わり、ランドセルを背負って校門を潜る
立ち止まる胡桃。
夏妃は胡桃に追いつき、ニコッと可愛らしい笑顔を胡桃に向けた。
夏妃は、小学校で人気者の生徒である。母親に結ってもらっている三つ編みのヘアスタイルに、淡いピンクのランドセルを背負った笑顔の絶えない子。
「もーっ! さっき教室で声かけてたのにー!」
「え…ごめん。気づかなかった」
顔を軽く膨らませて怒る夏妃。
「ま! 追いついたからいっか! 胡桃ちゃん、一緒に帰るよー!」
夏妃は、胡桃の手を取って歩き始めた。胡桃はなす術もなく、手を引っ張られたまま一緒に帰路の道へつく。
しかし、胡桃はどこか浮かばない様子だった。その理由は、夏妃と胡桃が正反対の人間だから。
今まさに二人が背負っているランドセルの色もそうである。夏妃は淡いピンク色。対して胡桃は黒。もちろん、2人とも自分の好みに合わせて購入したものだが、趣味・趣向から全く違うのだ。
そして、夏妃は周りにすぐ溶け込める、コミュニケーション能力に優れた人間。対して胡桃は、夏妃以外と全く話すことがない極度の人見知りで、あまり笑わない。夏希と違い、無表情の多い子。そしてクラスでも一人浮いた存在である。
だから胡桃は、夏妃以外に友達と呼べる人がいない。
胡桃にとって、夏希は表情豊かで笑顔がまぶしい光り輝く存在だった。常に表情を変えないことに、同級生から不気味がられてしまう胡桃は、常に夏希を羨ましく思っていた。
「胡桃ちゃん! 今日お家の駄菓子屋さん寄っていい?」
「いいよ」
「じゃあ一回、胡桃ちゃんの家に行く前にアタシの家に行こっ! ランドセル置いて、お財布取に行きたいもん!」
「うんっ…」
胡桃の家は駄菓子屋を営んでいる。
今は胡桃の兄が切り盛りしていて、地元の小学生が様々な用途で駄菓子を求め、来店してくるのだ。
夏妃は、胡桃と一緒に帰るときに必ず、駄菓子屋に寄って帰ると言ってくれる。それは久留実にとって胸が躍るほど嬉しいことだった。しかし胡桃自身、本当に夏妃と一緒に遊んでいいのか、一緒にいていいのかと不安に思う日々を送り続けていた。
M:「夏希ちゃんには、もっとふさわしい友達がいる」
夏妃の家は地元でも有名なお金持ちの家。両親がどのような仕事をしているかは知らないが、両親のいない久留実にとって、環境から人間性全てが、夏妃と全く違うことに後ろめたさ、ネガティブさをひしひしと痛感し続けていた。
それでも夏妃は、そんな気持ちを汲んでなのか、それともそれすら気にする必要はないと思っているのかはわからないが、常に胡桃に優しい言葉を投げかけ、胡桃を“親友”と呼び続けている。
胡桃は…夏妃が後ろから声をかけてくれていたことに、本当は気づいていた。だが、胡桃本人が、夏妃に迷惑をかけていると感じていたから、あえて無視という愚策を取るほかなかった。ただ、その愚策も一瞬で終わることとなる。それも胡桃はわかっていた。
クラスメイトが夏妃に「柚木さんと一緒にいない方がいいよ」と話しているのは知っていた。だが夏妃は怒ったのだ。「親友を悪く言うな」と。
胡桃もその言葉を信じていた、だが人並み以上に自己肯定感の低い彼女は、夏妃自身を百パーセント信じていても、自分を一パーセントも信じないから、結果的に愚策に走ってしまう。
それでも、走って追いかけてきてくれた親友の気持ちが嬉しかった。
胡桃が小学校一年生の、この時だけは。
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