9 大丈夫だよ
小川で遊ぶチカは怜を見つけるとニッコリと笑顔で近づいてきた。
「お兄さん、そんなところで見てないで、こっちで一緒に遊ぼうよ?」
悪戯っ子な表情で、チカは手招きをする。
「しょうがねーな」
怜は渋々靴と靴下を脱ぐと、川に足を踏み入れた。
「冷た!?」
なんだこの水は!水質がとても清らかで、川に足を踏み入れた瞬間に柔かさを感じた。それに冷たく感じるが、冷たいわけではない。なんなんだこの川は?
「おりょりょ?お兄さん、どうかした?」
チカは心配そうに怜の顔を覗き込んだ。
「いや、なんていうか異世界ってスゲーなって」
キョトンとするチカを尻目に、怜はポカポカする陽射しの陽気が暖かい。それに、マイナスイオンだろうか?とても清々しい気分だ。
「お兄さん…なんだかお爺ちゃんみたい」
そこはかとなく馬鹿にされた気分だ。怜はチカに訂正を求める。
「俺はまだ十九歳だ。断じてジジイではない」
チカは驚愕の表情になった。
「お兄さんは大人ぽっいから、もっと上だと思った!へぇー、十九歳だったんだね。じゃあ、生まれた月日は?」
怜は、自分が生まれたことを良くは思っていない。七殺眼の変な連中に誕生日プレゼントを貰ったことは衝撃だったが。今までは誰からも、そんな物は貰ったことがなかった。どうせアイツ等も、俺のことを煙たく思っていただろう。
「七月七日だ」
チカはビックリし、うむうむと頷いた。
「奇遇だね。私も七月七日なんだ」
怜は珍しいこともあるんだなと思った。そして、チカが、怜の顔を真剣な表情で眺めていた。しかし、怜は気づかないふりをする。そんな怜を見つめていたチカは、確信を告げる。
「お兄さん、ずっと気になってたけど。人と関わるのが怖いんだよね?もっと言えば、踏み込むのも踏み込まれるのも怖い?違う?」
怜は何も答えない。
「…」
「私はお兄さんが大好きだよ。無理に信じなくていいからさ、そんな顔をしないで。そんなお兄さんを見てたら、とっても胸が痛くなるんだ。言葉にするとズキズキするって言えばいいかな」
怜は重い口を開く。
「俺は怖いんだ、信じられない。だから、人を遠ざけてきた。どうせ信じても裏切られる。俺は誰も信じたくない」
チカは怜を抱き締めた。
「大丈夫だよ、なんとかなる。父様や母様も、それに勝彦だって、お兄さんのことはもう家族だと認めてるよ。私もさ、信じて裏切られるのは怖いけど、信じた私が好きなんだ。裏切られても性懲りもなく、また信じるよ。だって、それが自分を信じることに繋がるからさ。私は私を信じる。それが、私の希望だから」
怜は感情を言葉にしようとするが、言葉が何も出てこない。しかし、その代わりに涙が溢れた。
姫と異世界から来た狙撃手 七星北斗(化物) @sitiseihokuto
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