第9話  翌日

 カーテン越しにもかかわらず、日の光が顔を容赦なく照らす。


 だいぶハンモック生活にも慣れて、転がらずに1発で降りることができた。


さて。

 

まず初めに体温測定。

 

ピピピ。


 36.4度


 朝だからか少し低めである。

平常運転でほっと胸をなで下ろす。


 先日マスクや体温計、アルコールなどを購入しているところを家主に見られ、少し不思議そうにしていたので、花粉症がひどく、風邪との区別がつかないので毎日体温を測っているのだということと、少し潔癖があるのでアルコールを持ち歩いていると伝えてみた。

少し言い訳が厳しいかと思ったが、

「あ、だから皿洗いもあんなに丁寧なんですね!」と妙に納得してもらえたようだった。


 潔癖については、他の人に対して強要する事はないので、いつも通り過ごしてもらえればと伝えると安心したようだった。


 息苦しさや肺の痛みなどもないことを確認し、軽く身支度を整え、襖を開ける。


すると家主がいつものように朝食を作っていた。


「おはようございます!今日はよく眠れてるようですね!」

「はい!おかげさまで。」

身支度を整えると丁度机の上に朝食が並んでいた。

本日は卵とキノコの雑炊。

一口口に運ぶ。

おお。五臓六腑に染み渡るとはこういうこと。昨日油や酒などを多めに入れたので、体が塩分を欲している。どうやら昨日の夜から出汁を取っていたようで、いりこと鰹節の風味が感じられる。上にパラパラと載っているネギは少し多めかと思ったが、脳に刺激がいくようで丁度良い。

「んー。いいですねぇ。」

思わず言葉が出ていた。

「いいですよねぇ。塩味が染みますよねぇ。きのこもいい感じです。」

2人で雑炊に浸っていると、不意に家主が慌てたようにかきこんだ。

「どうされたんですか?」

「仕事!遅刻しちゃうんです!」

家主の仕事は土日祝日関係なくシフト制で回っているそうで、昨日はたまたま休みだったそう。

口をモゴモゴさせながら両掌を合わせ、台所へ食器を持っていく。

「片付けておくので置いておいてください!」

「ありがとうございます!助かります!」

と言って洗面所に向かい、身支度を整えると玄関に駆けて行った。

「鍵お願いします!行ってきます!」

・・・バタン。

 扉が閉まる音がしたので立ち上がり、鍵をかけた。

 机に戻り続きを口に運ぶ。

 食べながら昨日の話を思い出す。

家主に自分の事情がバレてしまった。

別に隠しておくことでもなかったのだが、なんとなくバレてしまったという感覚になった。

 そのことがよかったのかよくなかったのかはよく分からないが、バレてしまったものはもう仕方がない。

 これからのことを考えなければ。

 雑炊をかきこみ、キッチンへ持っていき、

家主の食器と一緒に洗う。

なぜ、自分が5年前の、それも日にちが違う日に来たのか。だいたい読んだことのあるタイムスリップ物は、同じ日が多い気がする。それも、隕石が落ちる前とか、大切な人が亡くなってしまう前に、とか、大災害が起こる前とか、エイリアンが攻めてきたとか・・・。

しかし記憶を辿ってみたとしても、5年前のここで、特に災害や事件などは起こってなかったはずだ。

念のため調べてみよう。

食器を洗い終わり、布巾で拭き上げる。

机に戻り、台拭きで机を拭き台所へ持っていく。

再び机に向かいながらスマホを取り出し、"2015年 災害"と検索をかけてみる。

いくつか出てきた。念のため全てチェックしてみる。

この年は航空機系の事故が数件、台風が2件、火災や噴火、地震、豪雨などもあり、怪我人や死者も出ていた。事故の概要を見ていたが、記憶にあるものがなかった。こんなに大きな事故だったのに知らなかったのかと、自身を責めながら、発生日と発生場所を確認していく。

今いるところから近いものや、日程的に近いものもあったが、距離的に近いものは日程がだいぶ後で、日程が近いものは場所がかけ離れていた。

もしかしたら知り合いが巻き込まれているのではとも思ったが、5年前の時点で気付いているのではないかとも思った。

念の為調べてみたが、知っていそうな人はいなかった。

となると、この時代、この場所に飛ばされてしまったのはこれらが原因ではなさそうだ。

 他の可能性を探そう。

とは言っても、なかなか心当たりが浮かばない。当時、今とは違う仕事をしていた。

つまり、2010年にしていた仕事ではなく、5年前の2015年にしていた仕事のことだ。

 大学卒業後、就職活動でやっと内定を取れた会社に新入社員で入り、数年が経っていた頃だと思う。

だいぶ仕事には慣れてきており、職場の人とも仲良くやっていた。そんな中、急な人事異動が言い渡された。

慣れた古巣を去り、新たな土地で頑張ろうと奮起していた矢先、事件が起こってしまった。


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