第5話  翌朝

翌朝目が覚めると、顔が太陽に照らされていた。上体を起こそうとすると下が揺れた。

驚いて必死にバランスをとっていると、昨日の出来事を思い出す。

あぁ、そうだった。5年前にタイムスリップして、ハンモックの上で寝ることになっていたことをすっかり忘れていた。


どうにかバランスをとり、ゆっくり床に足をつける。するとふわぁと小麦の匂いがした。


どうやら家主はすでに起きていて、朝食の準備をしているようだ。


襖を開けると物音に気づいた家主がこちらを振り返り、声をかけてきた。


「おはようございます。よく眠れましたか?」


「はい。お陰様で。」


慣れないハンモックで少し体が痛いところもあるが、草むらで寝るよりは天と地ほどの差がある。


「それは良かったです!朝ごはんもう少しでできるので、着替えなども済ませてしまってください。食べたらすぐ出かけましょう!」


着替えを済ませ、昨日の夕食と同じ机に向かう。すると本日の朝食は目玉焼きとベーコン、レタスのサラダとトーストが置かれていた。


「あ、聞き忘れてましたけど、苦手なものなどありましたか?」


「いえ、好き嫌いはありません。なんでも食べられます。」


「それは良かったです!さ、冷めないうちにどうぞ。」


朝食を食べながら、どんなものが必要か話をした。


いつまで続くか分からないが、とりあえず3日分くらいの衣料や、洗面用具、食料品などをとりあえず買いに行くことにした。


「それなら電車でいきましょう。車、持ってなくて・・・。」


確かにアパートの前には駐車スペースなどはなかった。


朝食を食べ終え、食器を洗う。今のところ任せてもらえている唯一の仕事だ。


「そういえば食器洗うのお上手ですよね。昨日使った食器がいつもより綺麗だったので。」


「学生の頃、飲食のアルバイトでずっと皿洗いをやってましたから・・・」


「そうだったんですね。皿洗いを極められてたんですね!同じ洗剤を使っているのにすごいなぁと思いまして。あと流し周りもとても綺麗にしていただいて。ありがとうございます。」


「こ、こちらこそありがとうございます。」


まさか、学生の頃のアルバイトがここで役立つとは。というか人から褒めてもらえるとは思ってもみなかった。お世辞で褒めてくれたのかもしれないが、一人暮らしが長いせいか、人と比べるようなこともなかった。

それに、アルバイト時代も、決して極めていたわけではなく、物覚えが悪く、器量がなかったため、他に仕事を任せてもらえなかっただけのことだった。


しかし、人から褒められるのは久しぶりだ。むず痒いが、自然と顔がにやけてしまう。家主はとうに出かける準備のためにその場を離れていたが、にやける顔を必死に抑えていた。顔がにやけてしまう自分が、なんだか気持ち悪いと思った。人に見せられるような顔ではないなと。そういえばいつからだろう。人前であまり感情を出さなくなったのは・・・。


そんなことを考えていると食器も洗い終わっていた。


流し周りも整頓し、家主に終わったことを告げる。


「ありがとうございます!準備できてますか?」


「はい。」


準備といっても昨日の荷物から仕事道具を出しただけだが。


「それでは出発しましょう!」


家主が勢いよくドアを開ける。

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