第63話 ルイ王子殿下の不思議

 ルイ王子殿下は、私をダンスホールの会場内にいたエド様のところに連れて行ってくれた。

 エド様は、私を見てホッとした顔をしたけど、すぐにルイ王子殿下に向かって礼を執る。


「マリーを見つけたよ、エドマンド。バルコニーの先のお庭に立っていたよ」

 ルイ王子殿下は、私をエド様に引き渡しながら、どこにいたのか知らせていた。

「ありがとうございます。ルイ殿下」

「礼は良いよ。僕にとっても大切な妹なんだから」

 公の場なのに、平然とそんな事を言っている。私がお兄様呼ばわりするのは、不敬だと周りから言われてしまうけれど、本人が言うのは良いのかしら? って、やっぱりこちらが不敬だと怒られそうなんだけど……。


「それより、殿下。今日はこちらにいらっしゃる予定では、なかったように思いますが」

 エド様が、ルイ王子殿下に確認している。まぁ、王太子殿下もジョゼ様も、国王の挨拶と共に会場を後にしたものね。王族がいると、そちらに注目が集まるし。


「気が変わったんだ。母上の側近中の側近の婚約パーティーくらい、顔出ししても良いかなって……。そしたら、マリーが、暗がりでボーっとしているだろう? 焦ったよ」

「暗がりで?」

 エド様が、チラッと私を見た。


「エドマンドが目を離すから、いけないんだよ。身分違いの恋物語を妄想をしながら、ふらふらと外に出てしまってたんだよね、マリーは」

 ルイ王子殿下は、後からエド様に怒られないように言ってくれているのだと思う。

「つい。ピーター様のご事情が小説の恋物語みたいだなって」

 私は、そう言ってから気付いた。

 何で、ルイ王子殿下が私の心の中の妄想を知っているの? 


 そう思っていると、何人かの貴族の方々がルイ王子殿下に気付いたみたいで、こちらにやってこようとしていた。

「さて、僕は部屋に戻るよ。じゃ、マリー。あまり、ふらふらするんじゃないよ。王宮内も君が思っているより、安全じゃないんだからね」


 じゃね。と、私達に手を振って、ルイ王子殿下はスッとバルコニーから消えて行った。

 いや、物理的に消えたわけじゃない、ちゃんと、歩いて自室に戻っているんだろうけど。



 よく考えたら、不思議な方だよね。

 幼少期より病弱だからと、そのほとんどを自室と王妃様の生活エリア内で暮らしていた、第二王子ルイ殿下。

 16歳といえば、本来なら夜会デビューをしていてもおかしくないご年齢なのだわ。

 

 なんだか、ルイ王子殿下を見ていると、クレイグお兄様を思い出す。

 本来は愛妾の子でも、当主が認知したからには息子としての役割を与えられ、王宮勤めで王都に屋敷を構えるか、領地経営を任されるか。

 ウィンゲート公爵の跡を継ごうとさえ、思わなければ……。


 もちろん、ルイ王子殿下の方が、ご自身の立場を理解してると思うけど。

 なんにしろ、比べること自体不敬だから、誰にも言えないのだけれどね。


「マリー、そろそろ。私達も引き上げるか」

「そうですわね。エドマンド様」


 私達の結婚式が終わったら、この茶番めいた王妃様の家族ごっこも終わり。

 王太子殿下はともかく、ルイ王子殿下とはもう会わないわよね。

 次に王都に来るときまでには、エド様も自分たちのお屋敷を完成させるって言っていらしたし。


 それにしても、気になるわ。

 ピーター・ブラッドロー様とチェルシー・ムーアクロフト様の恋物語。

 きっと、素敵だったんでしょうね。


「マリー。夢見心地で歩いてはダメだろう?」

 そう言って、私はエド様からしっかり手を握られて、お部屋まで連れ帰られたのだった。

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