第48話 メアリー様、ごめんなさい。無理だわ、これ……

「顔が赤いな。マリー」

「エ……エド様のお顔が近くて」

 私は、メアリー様が言っていたことを思い出していた。も……もしかして、この距離でお話していた?

「今までと変わらないと思うが?」

 エド様は穏やかな顔で私に訊いてくれているのに……。なんだか、怖い。


 エド様のお顔がさらに近づいたかと思うと。額に瞼に頬にとキスをされて、最後に唇にキスをされてしまった。

 エド様とのキスは初めてでは無いのに、顔も身体も熱いのに、私は震えてしまっている。

 だって、いつものエド様と違う。


「おっと、嫌だったか?」

「い……嫌では無いです。だけど」

「だけど?」

 エド様はにこやかに訊いて来る。だけど、その腕はしっかり私を抱き込んで逃がしてくれそうに無くて。

「ごめんなさい。エド様の事、少しでも怖いと思うなんて」


 エド様は、ふぅ~と長い息を吐いた。

「良かった。いつもあまりにも俺の腕の中で安心しきっているから、マリーの中で俺は保護者になってしまっているのかと思っていた」

 確かに安心はしていた、エド様は大人で私の事をいつも優しく導いてくれていたから。


 エド様は、私の頬……目の下の涙を唇で拭ってくれていた。

「マリーは、報奨品とかこの婚姻は王妃命令だとか思っているようだが……いや、ある意味間違っては無いのだが。それでも、俺は」

 そう言いながらエド様は私の耳元に唇を寄せてきて、

「俺は、マリーの事を愛しているから、一緒になりたいと思ったんだ」


 私は、驚いて目を見開いてしまった。そして、涙が流れ出る。

「マリー?」

 泣き出してしまった私を見て、エド様がオロオロとしているけど。

 私はエド様の胸にしがみついて

「わたくしも……わたくしも、エド様が好き……です。ずっと、一緒にいたい」

 そういうのが精一杯だった。





 あの後、泣き出してしまった私をエド様はやっぱり保護者に戻ってしまって抱きしめてくれていたのだけど。


 私は、今ケイシーの入れてくれた紅茶を飲みながらボーっとしている。最近、ボーっとしていることが多い気がするけど。

 衣装選び……あれはボーっとしていたのではなく、呆然としていたのだからね。


 エド様が、私を愛しているから一緒になりたい、と言って下さった。

 なんだか、昨夜の事を思い出すと顔が熱くなる。もしかしたら、メアリー様が言っていたのって、これだったのかしら……。


 逃げれないくらい抱きしめられて、そしてエド様のお顔が……。

 ダメよ、思い出してはダメ。

 ほら、ケイシーが怪訝そうな顔を私に向けているわ。


 私、無知だったわ。こんな……こんな事に慣れる日なんて来るのかしら。


 メアリー様、ごめんなさい。無理だわ、これに慣れるなんて。




 あの晩から毎日、エド様は私との……今までとは違う時間を持ってくれるようになった。

「王都に着いたら、こんな時間は持てそうにないからな」

 エド様は、そういうけど私はエド様が怖くなくなったというだけで、やっぱり慣れそうにない。こんな、大人同士が愛を囁き合うような時間。

 

 私は、昼間もどこか夢心地でボーっとしながら、ケイシーやベッキーたちの助けで王都に向かうための、準備をしていたのだった。

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