番外編 ケイシー・オルコットの回想 1

 私、ケイシー・オルコットがウィンゲート公爵家の侍女見習いとして連れて来られたのは、10歳の頃。


 男爵家の当主に5番目に認知された令嬢だった私は、婚約するはずだった伯爵家のご令息の急逝と共に男爵家を追い出された。

 貴族の子どもなんて年間山ほど産まれる。愛妾は元より、当主が手当たり次第侍女に手を出していたらなおさらだ。


 そして、当主から我が子と認知されるのはほんの一握り。正妻の長男、次男、長女くらいだ無条件で認知されるのは……。

 その他の子達は利用価値のある子どもだけが認知される。あとは、奴隷の身分に落とされるか、他家の使用人として奉公させられるかである。


 そうして、私はマリーお嬢様と出会った。

 まだ赤ちゃんのマリーお嬢様、王太子殿下の誕生に合わせて正妻に産ませたご令嬢。

 私の仕事は、生涯この方にお仕えする事だと教えられた。

 いずれ一緒に王宮に上がるのだと、王宮侍女としての立ち振る舞い、教養、必要な事は全てたたき込まれた。


 1年後、わずか1歳のマリーお嬢様は、どん底に突き落とされる。

 王太子殿下の婚約者には、ウィンゲート公爵家以外の公爵家のご令嬢が選ばれてしまった。

 賢者様がお決めになったことで、誰も逆らえない。

 アーロン・ウィンゲート公爵閣下は、荒れに荒れた。

 正妻であるアナスタージア様を引き摺り倒し、まだほんの赤子であるマリーお嬢様を殴ろうとなさっている。


 冗談じゃ無い、殿方が力任せに殴ったらマリーお嬢様が死んでしまう。

 私は、とっさに身体が動いてマリーお嬢様を庇う。

 部屋の隅に飛ばされ転がってしまうほどの強い力でぶん殴られてしまった。

 なのにまだ、マリーお嬢様を殴ろうとしている。

「おやめください、旦那様。マリーお嬢様が死んでしまいます」

 私は、必死で叫んだ。顔が引っれた感じがする、麻痺してるのか痛みは感じないけど腫れ上がっている。


「ほう。私に意見するか」

 怖い。睨み付けられている。

 私はひれ伏し、続けた。

「意見など、とんでもございません。ですが、正室にはなれなくとも側室の道がまだ残されているのでは、無いでしょうか」


 利用価値の無い貴族の子の行く末を、私は知っている。この年齢なら確実に奴隷に落とされるか、娼館に売られていってしまう。

 もしかしたら、今ここで殴り殺された方が、マシだった人生になるのかも知れないけど。

「意味が無い。正室で……王妃でないと、政権は執れぬ。だが……」

 ふむっと言った感じで考え込まれている。


「分かった。お前の意見を取り入れよう。女児だ。どこぞに嫁がせれば良いことだしな」

 そう言い残し、旦那様は部屋を出て行った。侍女達のヒソヒソ話がずっと聞えていた。


 間もなく、私たちは王都のお屋敷からウィンゲート公爵領地、田園風景の広がる田舎に追いやられてしまった。

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