第68話 私と天使(妹)とコンクール





翌日、私たちはコンクールに臨んだ。

舞台上に上がった時の景色や快感、特別な空気感は実際に体験してみないとわからないと思う。


そんな特別な時間は一瞬で終わり、演奏終了後、立ち上がった時に客席から目をキラキラさせて舞台上を見ていた私の天使(妹)と目が合う。


「みことちゃん、こう君、お疲れ様」


演奏が終わり楽器置き場に戻り楽器を片付けているとゆめ先輩が私とこう先輩に声をかける。私とこう先輩は目を合わせてからゆめ先輩と向き合う。


「あの、ゆめ先輩…」

「いいよ。大丈夫。おめでとう。これから、2人で仲良くやりなよ。お幸せにね。こう君、こんな私をずっと慕ってくれてありがとう。みことちゃん、こう君をこれからも支えてあげてね。私が、こんなこと言っていいわけないけど、こう君は私の大切な後輩だからさ」


こう先輩が、私と付き合ったことをゆめ先輩に伝えようとするとゆめ先輩は笑顔でそう言った。


「ゆめ先輩…ありがとうございます。えっと…こちらこそこんな後輩でごめんなさい。僕も、こんなこと言っていいのかわからないですけど…ゆめ先輩は僕の大切な先輩です。憧れの先輩です。その事実はこれからも変わらないです」

「そっか…ありがとう」


ゆめ先輩もこう先輩も泣きそうだった。きっと、私が思っているよりもずっと、この2人はお互いを尊重し合ってきたのだろう。その結果、ずっとずっとすれ違って、その歯車がようやく噛み合ったと思ったら、今日はあっという間に来てしまった。これで、終わり…それは、きっと、寂しいのではないだろうか。ずっとずっと、先輩として、後輩のことを考えていたゆめ先輩、憧れの先輩であり大好きな先輩のことを考えていたこう先輩、2人のチューバの音が噛み合うのが、これで最後はすごく、もったいない気がした。


「こう先輩もゆめ先輩も何言ってるんですか?次は定期演奏会ですよ。また、3人で頑張りましょう」


私が笑顔で言うと、こう先輩はそうですよ。とゆめ先輩に言う。それに流されるようにゆめ先輩はありがとう。と言って頷いた。


「お姉ちゃん!」

「みゆ、お待たせ」


楽器の片付けを終え、会場のロビーで待っていた妹を迎えに行く。妹は勢いよく私に抱きついてきたので私は妹を受け止める。


「どうだった?」

「すごかった!すごく、輝いてた!私も…コンクール出たい!」

「来年、高校に入ったら出られるかもね」

「頑張る」


妹の無邪気な返事を聞いて、私は気づいたら泣いていた。妹に目標が出来たこと、それが本当に嬉しかった。何より、こんなに笑顔で、こんなに目をキラキラさせた妹を見るのはすごく久しぶりな感じがした。










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