『軽い心臓』
僕の心臓は軽くないとそのスズメは言い出した。
いやいやと半分馬鹿にしたように返してみたら、ますますスズメは怒った。羽をパタパタしながら怒った。バタバタじゃなくてパタパタって音がしている時点で君は軽いんだよ。私は諭すように言った。そしたら彼はすねた。横でカラスがバタバタと羽ばたいて飛んでいった。
その夜、いつものように川の字になって、私、妻、そしてスズメが寝ていると、妙なことが起こった。寝ている和室のふすまが突然すーっと開いた。静かに開いたな、と思って何気なく横を見たら妻とスズメは寝たままだった。
おかしいなと思ってふすまが開いた方を見たら、そこに鬼がいた。なんだ鬼か、と私は鼻を鳴らした。それに対して鬼は少しムッとした。目を見たらそれが分かったので、あまり逆立てて妻やスズメを起こされるのは嫌だなと思ったので私は目をつむった。
朝になって、まだスズメがすねているようだったので私は彼を散歩に誘った。私たちは時折クヌギやケヤキに耳を当てては彼らの呼吸やその中に流れる水の音を聞いて楽しんだ。そして目的地の大きな滝が見える場所に着いた。
私は少し大人になって、昨日は馬鹿にしてごめんと謝った。でも私は嘘はついてないよと言ったら、スズメはそんなの分かってると、澄んだ目をして言った。私たちは仲直りができた。空気もいいしせっかくだから見せ合いっこしようよと、私は胸の扉を開けながら提案した。もちろんと彼も胸の扉を開けた。
おやっと思った。私の心臓がなくなっていた。
スズメは「ないじゃん」と澄んだ瞳で言ってきた。彼は見たこともないくらいの喜びをガッツポーズで表現して見せた。そのガッツポーズを見ていたら、ちょっと私も嬉しくなったが、ないじゃんと思った。鬼の仕業だと分かったが、もう彼はとっくに食べちゃっただろう。私はあきらめることにした。滝のせいで気持ちはすぐに落ち着いていった。
その間、スズメはなぜか私から目を離さずにずっと見てきた。すると、彼は自分の心臓を私の目の前にすっと出してきて、どうせ君より先に死ぬからいいよと言ってきた。私はその気持ちがとても嬉しくて、胸が熱くなった。彼はやっぱり何も分かっていなかったが、彼のことが大好きだと素直に思った。あぁ、心臓がなくったって胸が熱くなるんだな。
そして、傷つけるとは分かっていたが「君の心臓は軽いから無理なんだ」と言った。
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