第4章 憎悪と祈りの都

第4章 Part 1 レピア・カヴォート

【500.5】


「止まれェーー!!

 お前たち、そこで止まれェーー!!」


 私たちが大きな門に向けて歩いていくと、門番らしき男が叫んだ。


「そこにある魔法陣を踏んでから、ゆっくりこっちに来い!!

 魔物を検知する魔法陣だ!」


 そんなものがあるのか。


 メリールルの歩みがピタリと止まった。


 ……彼女、引っ掛かりはしないだろうか?




「何をしている!?

 ゆっくり1人ずつ、魔法陣を踏め!!

 必要な手続きだ!」


 どうする?

 何とかごまかせない?


 メリールルが唾を飲む。


「いーよ。やってみる。

 ここでゴネて問題起こしたくないし」


 ゆっくりと片足を魔法陣に乗せる。

 ……反応はない。よかった。


 結局魔法陣は反応せず、全員が無事通り抜けた。

 門番の前までやってくる。




「で、なんだお前ら?

 なぜ閉鎖された坑道から出てきた?」


「閉鎖されている坑道を通ったのは、すみませんでした。

 ですが、私たちはネステアの人間ではありません。

 世界を周って旅をしているんです」


「フン……!

 こんな時代に旅か。

 ディエバに何の用だ?」


「この町の中に、ファラブス運営本部があると聞きました。

 どうしても代表の方にお会いして、お話を聞きたいんです」


「通行証は持っているのか?」

「通行証?」

「無いようだな。

 通行証が無ければ、この門を通すことはできん」


「そんなものが必要なんですか?

 持ってはいませんが、少し話を聞きたいだけなんです。

 何とかお願いします。

 あ、私ハンターギルドの一員なんです。

 ギルドのライセンスならあります」


「くどいな。

 通行証を持たぬ者は通さん。


 お前、この国のハンターではないだろう?

 どこだ? ブルータウンか?

 ただでさえ最近は不逞の輩が多いのだ。

 ましてや他国の人間を通す道理などない。

 帰れ!」


 ここまで会話したところで、直後にはメリールルの膝が門番の顔面にめり込んだ。


 そりゃ怒りますよね、

 メリールルさん。あなたの沸点なら。


 男2人は何で止めてくれなかったのよ。


「敵襲だああ!!」


 すぐに7、8人の兵士が集まってきた。

 どうするの、これ?


 兵士たちは問答無用で斬りかかってくる。

 各人が致命傷を与えないように1人ずつ倒していく。

 こいつらそんなに強くない。


 立っている兵士は残り1人だ。


「お、お前ら何者だ!?

 この所業、タダでは済まんぞ!!」




 その時、大扉がゆっくりと開いた。

 甲冑を着た、1人の人間がそこから出てきて、また閉まった。


 出てきたのは、燃えるような赤い髪が印象的な女。

 凜とした、美しい顔立ちをしている。


「……騒がしいな」


 女を見て、残った兵士が駆け寄る。


「レピア様!

 すみません、賊に不覚を取りました」

「そうか。

 ……なあ、この場、私に預けろ」

「良いのですか?

 感謝いたします!」


 兵士は引き下がり、倒れた仲間の手当てを始める。

 レピアと呼ばれた女はこちらへと歩いて来た。




 私の操作魔法の間合いに入るか入らないかのところで、レピアは止まり、笑顔で私たちに話しかけた。


「楽しそうなことをやってるな!

 私も混ぜてくれよ!!」


 彼女は腰の剣を抜いた。

 細く、しなやかな刀身が陽光を反射して銀にきらめいている。


「成り行きでこうなってしまいましたが、私たちは戦闘が本意ではありません!

 話が聞きたいだけなんです!」


 この人は門番の兵隊とは違う気がする。

 必死の説得、通じるだろうか。


 ニヤリと口元を歪めながら、レピアが叫んだ。

「つまらんことを言わないでくれよ。

 ……早くやろうぜ!!」


 レピアが地面を蹴った。

 恐ろしく速い……!


 最初の狙いは私だ。

 一気に間合いを詰めらる。

 楔を前方に移動させ一太刀目の防御を試みる。

 だが、楔を正面に持ってくる前に、右の二の腕をレピアの細い剣先が刺し貫いた。


「うぐッ……!!」


 驚きとも悲鳴ともつかない声が、喉から漏れる。


 アーサーが短剣を構え、こちらに突進して来る。

 ジャックはもどかしそうな表情を浮かべながら、水筒から残り少ない水を出している。

 メリールルが怒りに任せて突っ込んで来る。


 私の体がバランスを崩し、その場に倒れる。

 その直前、鋭い蹴りが耳の横を掠めた。

 レピアの強烈な蹴撃がメリールルの腹にめり込み、メリールルが後方に吹っ飛ぶ。


 アーサーの流れるような二刀の剣撃を、レピアの細剣が同時に受け止める。

 返す剣で、しならせながらアーサーの左肩辺りを突き刺す。


 崩れるアーサーの背後から、ジャックの水の刃がレピアの首元を目がけて飛ぶ。

 同時に右側方からも、もう1枚の水の刃が彼女に接近する。


 レピアは限界まで水の刃を引き付けた後、鋭い一太刀で2つの水の刃を同時に弾き捨てた。


「……っがあああああッ!!」


 はるか後ろで怒りの咆哮が聞こえる。

 直後、メリールルが氷龍へと変化し、坑道の入り口を破壊しながらレピア目がけて走り出した。


「おっ……何だそれは!!?

 やればできるじゃないか!

 ハッハッハッハァ!!!!!」


 レピアが高笑いを響かせる。


「さて、どうやって仕留めるか?

 迷うなァ!」


 その言葉が終わらないうちに、レピアは再び地を蹴った。


 速過ぎて目で追えない。

 レピアを再度視界に捉えた時には、既に彼女の膝がジャックの脇腹に刺さり、彼の意識を奪っていた。


 氷龍が大きくジャンプし、右前足をレピアに向けて振り下ろす。




 ギィィーーーンッ!!




 耳をつんざくような金属音。


 何とレピアは、強烈な氷龍の爪による斬撃をその細い剣のみで受け止めていた。

 彼女の足元が、堅い土の地面に少しめり込んでいる。


「フゥゥゥウ!!!

 最ッ高だァ!!」


 レピアは左手で氷龍の爪を掴み、それを支えにして腕の付け根方向に跳んだ。


 トンッと氷龍の肩に着地し、もう一度上にジャンプする。


「おぅぅらッ!!」


 レピアが空中で一回転し、氷龍のこめかみ辺りに渾身の蹴りを食らわす。

 氷龍の顔が右側によろけ、そのまま轟音と砂埃を立てて地面に倒れ伏した。


 氷龍は動かない。

 しばらくして降魔が解け、メリールルは元の姿に戻った。


「ああ~。

 いい手合わせたっだなァ!」


 着地したレピアが、楽しそうに門の方へ歩いて行く。


「よし。

 お前たち、気に入った」


 そして、やっと仲間達を回収した門番の男に向けて言った。


「おい。

 この4人は私が預かるぞ。支部まで連れて行く。

 運ぶの手伝ってくれ」


「し、しかし!

 この4人、平民区の通行証を持っていません!

 帝都に入れるわけには……」


 レピアが更に一歩踏み出し、門番の男に顔を近づけた。


「オイ……!

 あんた、最初に私に預けるって、言ったよな?」

「ですが……規則で……」

「気に入らんなら平民区の通行証を新たに4枚、今すぐ私によこせ。

 これで何も問題ないだろ?

 それとも、あの龍に食われたかったのか?」


「わ、分かりました……」




 その後、私たちはレピアに連れられて石造りの建物の中に招き入れられた。

 そこには、ヒーラー、つまり治癒魔法を専門に扱う老人がおり、私たちの負った怪我をすぐに治してくれた。


 建物の名称は、

「ハンターギルド ガラム支部」

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