第436話 僕たちにできること。
「何かあったの?」
車に乗った瞬間、まゆにそう尋ねられてびっくりする。まゆには全てお見通しのようだ。
「うーん。まゆがかわいすぎてどうしよう。って考えてた」
「言いたくないなら言わなくていいよ。まあ、なんとなく察しはついてるし……」
陽菜と同じサックスパートのまゆには最近陽菜の様子がおかしいことくらいすぐにわかってしまうのだろ。
「ありがとう……」
「お礼言われるようなことはしてないよ。1つだけ教えて…りっちゃんは大丈夫だった?」
陽菜ではなくりっちゃんさんの心配をしているまゆ、りっちゃんさんのことをよく見ている……
「わからない」
たぶん、大丈夫ではないと思う。あんなりっちゃんさんは初めて見た。きっと、陽菜にも見せていない表情で、僕以外の誰も見たことがない表情だろう。すごく、心配だけど、りっちゃんさんのことを勝手に他の誰かに伝えてはいけない気がした。
きっと、りっちゃんさんは…あんなに弱気な自分を他の人に知られたくないだろうから…
「まゆは…りっちゃんさんのこと心配?」
「当たり前じゃん。りっちゃん、なかなか辛い感情表に出さないから、一人で抱え込んでないかすごく心配なの。もしもだよ。まゆとりっちゃんの立場が逆だったら、まゆはいっぱい泣いちゃうと思う。いっぱい泣いて、いっぱい考えて、いっぱい弱音を出しちゃうと思う。まゆと違ってさ、りっちゃんはかわいくて優しくてすごく頼りになって、強い心を持ってるけど、それでも、たった一人の女の子なんだもん。辛い感情を隠して、ずっと耐え切れるわけないよ……」
本当に心配そうな表情でまゆは僕と同じ不安を口にする。なんでもできてすごく頼りになるりっちゃんさんもただの人間だ。辛いって思うことだっていっぱいあるだろうし泣きたい。と思うこともあるだろう。
「まゆに何かしてあげられることないかな……」
「まゆ、言い方悪いかもだけど、僕たちに出来ることはないと思うよ。りっちゃんさんが頼ってくれない限りね…」
僕たちがどれだけ心配しても、りっちゃんさんは不安をひたすらに隠そうとする。今日、りっちゃんさんと話して、そんな気がした。りっちゃんさんは隠そうとしているのに、僕たちがでしゃばって心配しても何も始まらない。
「これはりっちゃんさんが陽菜と解決する問題だよ。助けを求められない限り、僕たちは介入することすら許されない。もどかしいのはわかる。心配なのもわかる。でも、りっちゃんさんと陽菜を信じる以外の選択肢は今はないよ」
冷たいかな…大切な幼馴染みと大切な先輩のことなのに…でも、実際にどうしようもない。僕とまゆが何かしたところで陽菜の身体が良くなるわけでもないし、りっちゃんさんの不安を消すこともできない。
陽菜が、りっちゃんさんの気持ちに気づいて、解決する。きっと、それ以外に解決する術はないだろう。と、僕は思う。僕の考えを聞いたまゆは小さな声で、そうだね。と短く答えた。
ちょっとだけ、まゆと気まずい雰囲気になりながら僕とまゆはアパートに入った。
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