第333話 1人の時間
「りょうくん、電話に出てくれないです……」
「そっかぁ。まゆちゃんのご両親と一緒にいるかもしれないし仕方ないよ。後でまた電話しよう」
お昼ごはんをゆいちゃんと一緒に食べた後、しばらくしてゆいちゃんは我慢できない!と言ってりょうちゃんに電話をかけ始めようとする。私は、表面上は止めたが、本音ではゆいちゃんに電話して欲しかった。私も、りょうちゃんとお話ししたかったから……
そして、ゆいちゃんの電話にりょうちゃんが出ないと、私はゆいちゃんを慰めるような態度を示してはいたが、実際は私もちょっとだけ悲しかった。りょうちゃんの声が聞きたい。りょうちゃんと言葉を交えたい。まゆちゃんとりょうちゃんが2人きりになることを許す条件に定期連絡を入れるべきだったなぁ。と、ちょっと後悔する。
そんなことを考えていると寂しさのあまり、ゆいちゃんがまたりょうちゃんの写真を見ながらおままごとみたいな一人芝居をしている。ちょっと…いや、かなり怖いからやめた方がいいよ……
でも、写真でも、りょうちゃんの顔が見れて私の中にあった寂しさが少しだけ軽減された気がする。私も、ゆいちゃんみたいなことちょっとだけ試してみようかな…いや、やめとこ。
「ゆいちゃん、そろそろバイトに行く時間だよね?今日、夜はどうする?帰ってくる?」
「うーん。どうしましょう。春香ちゃんが1人で寂しいなら帰ってきてもいいですけど…あー、でも、明日ゴミの日だしなぁ……」
「ありがとう。私は大丈夫だから今日は自分の部屋でゆっくりしなよ。バイト終わってからわざわざこっち来るのも大変でしょう?」
「まあ、はい。じゃあ、申し訳ないですけどお言葉に甘えて今日は自分の部屋で過ごします」
「はーい。バイト、頑張ってね」
ゆいちゃんを見送ると部屋の中は急に静かになる。静かな部屋は慣れているつもりだ。1年生の時とか、1人でいることは割とあったから……
でも、りょうちゃんと同居して、まゆちゃんと暮らし始めて、ゆいちゃんも頻繁にお泊まりに来て、最近はすごく賑やかだったからいざ、この部屋で1人になるとかなり寂しい。
寂しすぎて、私はりょうちゃんに電話をしてしまうが、りょうちゃんは電話に出てくれなかった。
「寂し……」
気づいたら泣いていた。明るい部屋に慣れすぎたのだろうか。ちょっと前の状態に、たった1日戻っただけなのになぁ。
寂しすぎて、1人でいたくなくて、私は気づいたらスマホに手を伸ばして、電話をかけていた。
相手が電話に出て、事情を伝えると、しばらくして部屋に来てくれた。
「春香ちゃん、りょうちゃんがたった1日いないからって寂しがりすぎでしょう」
りっちゃんと一緒に部屋に来てくれた陽菜ちゃんにそう言われて、私は何も言い返せなかった。
りっちゃんが来てくれて嬉しい。去年、1人でいた時に寂しさをあまり感じなかったのは、たまにりっちゃんが泊まりに来てくれていたからだ。
今日も、りっちゃんが来てくれれば寂しさは少しはおさまるのかな。と思っていたが、実際にはそうはならなかった。
たぶん、来たのがりっちゃんだけならこうはならなかった。きっと、りっちゃんと2人で楽しくいられたと思う。でも、隣にいる陽菜ちゃんを大切そうにしているりっちゃんを見て、私は隣にりょうちゃんがいてくれない寂しさを嫌でも思い出してしまった。こんないい方はよくないかもしれないが、りっちゃんを呼んだのは完全な悪手だったのかもしれない。
「春香ちゃん、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。わざわざ来てくれてありがとう」
私は必死に笑顔を作ってりっちゃんと陽菜ちゃんを部屋に招き入れた。私が呼んだのに、身勝手な理由で素っ気ないような対応になってしまっていることを申し訳なく思いながらりっちゃんと陽菜ちゃんをリビングに通して用意していた夜ご飯を3人で食べた。
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