第327話 知りたくなかった。
「はぁ………」
………まーた溜め息吐いてるよ。さっきからずっとあんな感じだ。大切な人が少しだけ離れた場所に行ってしまったくらいで世界の終わりみたいな表情をしている。やれやれ…だ……たった数日りょうちゃんが側にいないくらいでこんな表情をするのに、りょうちゃんと別れようとしてたなんて本当にバカな子だよなぁ。と思いながら私も溜め息を吐く。
ゆいちゃんに呆れた意味合いが2割くらいで、本質的な意味合いとしては、私もりょうちゃんが数日、側にいてくれないからだろう。
「りょうちゃんとまゆちゃんが帰ってきてもしばらくまゆちゃんはりょうちゃんのとなりお預けだね」
「ですね」
夜ご飯を食べてお風呂に入っていつものようにリビングに布団を敷きながら私が呟くとゆいちゃんが力強く頷いて同意してくれた。
「ゆいちゃん、今日は一緒に寝ようね」
「はーい」
あーかわいいわぁ。癒されるわぁ。ほんと、素直な妹みたいでかわいい。こんな妹が欲しい。
「りょうくん……」
うわぁ………
ソファーに座ってスマホでりょうちゃんの写真をめちゃくちゃ寂しそうな表情で見つめるゆいちゃんを見てちょっと引いてしまう……やっぱり妹にしたくないわ……ちょっと怖いもん。ていうか、ゆいちゃん、自分のアパートで1人の日は毎回こんなことしてるのかなぁ……
「ゆいちゃん、それはちょっとやばいと思う…」
「え?何がですか?」
………素でやってるのね。やばいわ……りょうちゃん、ちょっと気をつけた方がいいかも……ゆいちゃん、ちょっと怖い……ま、まあ、それだけりょうちゃんへの愛が深いってことだよね。うん。そうだ。そういうことにしておこう。
「ゆいちゃん、そろそろ寝よっか。夜更かしはよくないからね」
「そうですね。私もそろそろ眠いですし…」
ちょっとあくびしながら私に答えるゆいちゃんはかわいらしかったのだが……
「りょうくん、そろそろ寝るね。おやすみなさい」
スマホの画面に映るりょうちゃんに笑顔でそう言うゆいちゃんを見て完全にドン引き…ちょっとやばすぎる。重症だわ…見なかったことにしよう。
「え?今日も一緒に寝たい?もう、りょうくんは甘えん坊さんだなぁ。じゃあ、今日も一緒に寝よっか」
そう言って枕元にりょうちゃんが表示されたスマホを置くゆいちゃんを見てドン引きしすぎて変な汗をかきはじめてしまう。やばいよこの子……
「……春香ちゃんはりょうくんにおやすみしないんですか?」
………しません。え?え?なんでそんなことをすることが当たり前みたいな聞き方をしてくるの?え?ゆいちゃんみたいな感じが普通なの?え?私とまゆちゃんは異常なの?え?私とまゆちゃんはりょうちゃんへの愛が足りてないの?え?え?え?
一瞬、めちゃくちゃ混乱したが、私は普通大丈夫、私はまとも……と、必死に自分に言い聞かせて心を落ち着かせる。
「ゆいちゃんは1人の時はいつもそうしてるの?」
「はい。春香ちゃんはしないんですか?」
しないよ!そんなことをするのが当たり前みたいに言わないで!ちょっと混乱して感覚麻痺するから……
ゆいちゃんと2人きりの夜を過ごして知りたくなかったゆいちゃんの一面を知ってしまった。今晩のことはりょうちゃんとまゆちゃんには黙っておこう。私の記憶の奥深くに封印しよう。私は何も見ていない。何も聞いていない。何も知らなかった。うん。
りょうちゃん……なんていうか、ちょっと……いや、かなり…気をつけてね。なんか、ちょっと…いや、だいぶ…かなり怖いから……りょうちゃんがゆいちゃんと別れたらりょうちゃんだけでなく私とまゆちゃんも刺されそうで怖い。と身震いしながら私を抱きしめて眠る天使と悪魔のハーフのような存在を見つめる。
りょうちゃんも大変だなぁ。ねよ……
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