第308話 フクザツ






4人で合流してからは京都を歩く。そして…


「「「じゃんけんぽん」」」

「負けた〜」

「りょうくん……」

「そんな顔してもダメ、勝ったのは春香なんだから」


京都名物と言っても過言ではない人力車に乗ってみよう。ということになったのだが、人力車は2人乗りだった為、2人組に分かれて乗ることになった。僕と一緒に乗る権利をかけたじゃんけんが行われて春香が勝利する。まゆは悔しそうにしてるが、ゆいちゃんは僕に何かを訴えかけるような目を向ける。そんな顔してもダメです。


「ゆ、ゆいちゃん、よかったら…変わる?」

「春香ちゃん!?」


春香の提案に驚いたのはまゆだった。ゆいちゃんは嬉しそうな表情をするが、春香の表情は明らかに無理をしている感じだった。


「春香、僕は春香と乗りたい。一緒に乗ろう」


僕は春香と手を繋いで春香に言う。


「えー」

「ゆいちゃん、勝ったのは春香ちゃんなんだから、諦めてまゆと乗ろう。ほら、行こ…」


まゆはそう言ってゆいちゃんを連れて人力車に乗り込んだ。僕も春香と一緒に人力車に乗せてもらう。


「春香、無理しないでよ」

「え、何が?」


まじで無意識なんだろうな。無意識にトラブルの原因を避けようとしている。そのためなら、自分はどうだっていいのだろう。


「春香、よく聞いて。僕たち4人の約束は4人で決めたんだよ。だから、じゃんけんで勝ったなら素直に勝者でいればいいの。春香がゆいちゃんを甘やかすとまゆも不満感じるだろうし、僕も春香とできることが減って嫌なの。公平にするためにじゃんけんで決めるってルールを作ったのに春香がゆいちゃんに譲ったりしたら公平じゃなくなるの。だから、4人のルールはちゃんと守ろう」

「う、うん。わかった。そうだよね。ごめんなさい」

「わかってくれたならいいよ。ごめんね。せっかく2人きりなのにこんな話して、さ…気分変えて楽しもう」


人力車が進み始めると、程よい感じの風が当たる。その風は、先程まで少し重くなっていた雰囲気を全て吹き飛ばしてくれるような感じがした。


「風、すごく気持ちいいね」

「だね」


心地よく流れてくる風と、京都の風景、そして、大好きな人の温もり、すごく幸せな一時を過ごすことができた。



「ゆいちゃん、お願いだから春香ちゃんにああいうこと言わせないで」

「ご、ごめんなさい…反省はしてます…」


人力車に乗って真っ先にまゆはゆいちゃんにお説教をする。たぶん、本当に悪気はないのだろう。ただ、りょうちゃんと一緒に居たいという気持ちが強すぎるのだ。りょうちゃんと2人きりの時間を過ごしたい。その気持ちはすごくよくわかるよ。


「ゆいちゃん、まゆとゆいちゃんは…本来、ここにいるはずじゃなかったんだからね」


あまり、口にしたくない。でも、本当なら…まゆもゆいちゃんもここに……りょうちゃんの側にいるべきじゃない存在だ。まゆは…大切な親友の恋に割り込んで…ここにいる。ゆいちゃんも似たようなものだ。本来なら、りょうちゃんと春香ちゃんは、ずっと、2人で幸せになるべきだったのに……


「罪悪感…あるんですか?りょうくんと春香ちゃんの関係に割り込んだ罪悪感…」

「まあ、少しね。たぶん、りょうちゃんに言ったら僕がまゆと一緒にいたくてまゆも選んだんだから気にしないの。ばか。とか言われるだろうけど…」

「そ、そうですよ。選んだのはりょうくんなんだから…」

「でも、私を受け入れてくれたのはりょうちゃんと春香ちゃんで、ゆいちゃんを受け入れたのはまゆとりょうちゃんと春香ちゃんだからね。だから、4人で決めたルールはきちんと守って。そうじゃないと…まゆはゆいちゃんを認められなくなるから…」

「わかりました…ごめんなさい…気をつけます……」


たぶん、悪気はない。だから、こんなことを言ってもあまり効果は期待できないかもしれない。でも、釘は尺とかないと…春香ちゃんがかわいそうだ……


「ごめんね。こんな話して、春香ちゃんすごーくいい子だからさ、自分よりもりょうちゃんとまゆとゆいちゃんを大切にしちゃうからさ。ゆいちゃんがああいうと譲ろうとしちゃうんだよ。自分だって、りょうちゃんの側に居たいはずなのにさ……」

「ごめんなさい」

「反省したならもう謝らないで、次からは、お願いね。4人で幸せになる。って決めたんだからさ、そのためにそういうところはちゃんとしようってだけだから」

「そうですよね」


反省はしてくれているみたいだ。でも、ゆいちゃんの言動を見ると、ゆいちゃんは4人でいるよりも、りょうちゃんと2人で居たい。という感情が強すぎるのだろう。たぶん、春香ちゃんもこのことに気づいている。だから、4人の関係が壊れないように、バランスを取ろうとしてくれていたのかもしれない。でも、春香ちゃんにだけは…遠慮して欲しくない。勝った時くらい堂々とりょうちゃんの側にいて欲しい。






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