第304話 寝起きモード







「りょうちゃん、まゆちゃん、ゆいちゃん、起きて、そろそろ時間だよ」


ゆいちゃんと付き合い始めてから結構な時間が経過して、大学生の長い夏休みも折り返し地点を迎えた9月の初旬、今日は4人ともバイトを休みにするように調整した日だ。


早朝の早い時間に春香に起こされて僕とまゆは起き上がるが、僕の腕をギュッと抱きしめて眠っているゆいちゃんは全く起きる気配がない。


「いつものことだけど…なんとかならないかなぁ…」


春香が呆れ顔で言う。ゆいちゃんは、朝、めちゃくちゃ弱い。アラームを耳元で鳴らしても起きない日がしばしば…実は付き合う前、大学の前期は割と1限遅刻常習犯で遅刻のしすぎで単位1つ落としたらしい。もうちょっとしっかりしようよ……


「ゆいちゃん、起きて」

「まだ眠いの…」


ゆいちゃんの何が大変かって…寝起きが悪いところだ。いや、不機嫌になる。とかそう言うことはないのだけれど、すごく駄々っ子になってかわいくてつい甘やかしてしまい春香とまゆに僕が怒られるから僕からしたら迷惑な話だ。


「起きないと置いてくよ…」

「えー、やーだ。でも、眠いから…りょうくん、着替えさせて…それで、車までお姫様抱っこしてぇ…それでぇ、車の中で膝枕してね。そうしたら、私、ぐっすり寝れる」


あざとい。けど、これを本気で言ってるんだよなぁ。ちなみに、以前これと似たようなやり取りをまゆが録音して、ちゃんと目が覚めたゆいちゃんに聴かせたら顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたことがあった。


「そんなこと言ってないで早く起きるの。本当に置いてくからね」

「それはやーだ」


僕がゆいちゃんから離れるとゆいちゃんは慌てて起き上がって僕の腕をギュッと掴む。そして上目遣いで、「置いてかないでぇ…」と目をウルウルさせながら訴えかけてくる。かわいすぎるよ。


「じゃあ、さっさとお着替えするよ。ほら、ゆいちゃん、早くお着替えしに行くよ。りょうちゃんもいつまでもデレデレしないの」


と、まゆに怒られる。まゆはゆいちゃんを連れて春香とまゆの部屋に着替えをしに向かう。


「春香、何か手伝うことある?」

「もう終わったから大丈夫だよ。ありがとう」

「そっか。ありがとうね。春香が作ってくれたサンドイッチ美味しいから大好きなんだよね。楽しみ」

「えへへ。そう言ってもらえると朝から頑張って作った甲斐があるなぁ」


朝、僕たちを起こす前から早起きして、朝食用のサンドイッチを作ってお弁当箱に詰めてくれていた春香、本当にありがたい。


「あ、ひとつだけお願いしていい?」

「ん?何?」

「あ、朝から頑張って作ったから…疲れちゃって…その、りょうちゃんが抱きしめてくれたら疲れなんて吹き飛ぶのになぁ……なんて…」


指をもじもじさせ、顔を真っ赤にしながら春香が言う。かわいすぎる。かわいすぎて抱きしめたい。


「いくらでも抱きしめてあげるから遠慮なく言ってよ。春香、ありがとうね。今日だけじゃなくて、いつも美味しい朝ごはんとか作ってくれてありがとう」

「えへへ。頑張った甲斐があるなぁ…ありがとう」


春香のすごく幸せそうな表情を見て僕も幸せを感じる。そうやって春香を抱きしめていると廊下からバタバタとした音が聞こえて来る。寝起きのゆいちゃんをまゆが介護?して、着替えさせて歯磨きさせたりしている音だろう。寝起きのゆいちゃんは本当に要介護必須だからなぁ…


「りょうちゃん、春香ちゃん、お待たせ…準備出来たよ」


ゆいちゃんを引き連れて息を切らしながらまゆがリビングに戻って来る。まゆの隣にいるゆいちゃんはまだふらふらしていてまだ、寝起きモードだなぁ。と言うことが伝わってきた。


「まゆ、お疲れ様…」

「本当に疲れた…」


いつも、ゆいちゃんの寝起きモードの処理はまゆが行ってくれる。疲れた。って言うが、なんというか、手間がかかる妹の世話をする姉みたいな感じの構図になっていて、なんか微笑ましい。疲れたとは言うが、まゆも嫌がってやっているわけではなく、ちょっとだけ、ゆいちゃんの世話を楽しんでるようにも見える。以前、春とりょうた君が来た時に妹とか弟が欲しい。と言っていたから、まゆにとってゆいちゃんは妹みたいな感覚なのかも知れない。


「少し休憩してから出かける?」

「大丈夫。あまり時間ないからさ、早く出かけよ。向こうでいっぱい楽しみたいからさ」

「そっか、無理だけはしないでね」

「大丈夫。心配してくれてありがとう。ちゃんと安全運転します」


まゆの返事を聞いて僕たちはアパートを出てまゆの車に乗る。寝起きモードのゆいちゃんは駄々を捏ねたが、じゃんけんの結果、僕はまゆの隣の助手席に座り、春香とゆいちゃんが後部座席に座る。後部座席に座った瞬間、寝起きモードのゆいちゃんは春香の肩に頭を当てて眠ってしまった。かわいい。


「じゃあ、行こうか」

「「お願いします」」


今日は早朝から日帰り旅行デート。夏休みに入る前に3人で計画していた日帰り旅行だが、ゆいちゃんの日程も合わせて4人で日帰り旅行デートに出かける。







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