第286話 練習後
「まず、今日のミーティングで話したいことは…1年生の学年代表の決定と、1年生の学生指揮者の決定をお願いしたいです。急ぎと言うわけではないですけど、1ヶ月後…後期の授業が始まるまでにはお願いしたいです」
ミーティングの1番最初にあーちゃん先輩は1年生に向けてそう言った。コンクールも終わり、1年生も部活に入って半年が経つ。そろそろ1年生も部活の運営に本格的に参加して欲しいと言うことなのだろう。この件に関しては1年生で持ち帰りと言う形になった。
「次は…そろそろ次の代の部長を本格的に決めたいです」
あーちゃん先輩がそう言うと隣にいたまゆがため息を吐いて、りっちゃんさんが嫌そうな顔をしてゆき先輩は魂が抜けたような表情をする。次の代の部長となると現在の2年生から選ばれるわけだが…現状、この3人が有力候補ということなのかな?
「みーちゃんに押しつけたい…」
隣にいたまゆがボソッと呟く。割とまじな感じの声だった。ちょっと怖かった。
「えっと、部長は2年生の中から何人か候補出してもらって全部員での投票で決めるのが通例だけどそれで大丈夫かな?」
あーちゃん先輩が確認を取るとりっちゃんさんが大丈夫です。と答える。
そう言った諸連絡やもろもろの決めることをテキパキと終わらせた後はいよいよ定期演奏会の曲決めが行われた。とりあえず、曲決め初日の今日は編成などを考慮して、候補曲を実際に演奏できるかできないかで曲数を絞り込み、絞った曲の中で人気調査の為の投票が行われた。投票結果などをもとに、部長であるあーちゃん先輩や指揮者、顧問の先生、パートリーダーなどの代表者による話し合いで曲を選別し、決定案に異論がなければ確定。と言った形になるみたいだ。曲の絞り込みや投票などを行っていたらあっという間に時間はすぎていて、その後は各自で基礎練習を行った後、今日の練習は解散となった。
「りょうちゃん、ゆいちゃんのこと、任せて大丈夫なんだよね?」
練習終わりにゆき先輩にそう言われた僕は任せてください。と笑顔で答えた。絶対、ゆいちゃんを辞めさせたりなんてさせない。
「何か、ゆきに手伝えることあったら言ってね」
「わかりました。ありがとうございます」
ゆき先輩とのやりとりを終えた後、ゆいちゃんから返事が返ってきていないかを確認するが、やはり返事は来ていなかった。僕は一度、ホールの外に出てゆいちゃんに電話をかけてみるが、やはりゆいちゃんは出てくれない。
「音沙汰なし?」
ゆいちゃんとの電話が不発に終わりホールに戻ろうとするとまゆが僕に尋ねる。僕がまゆにうん。と答えるとまゆは「りょうちゃんのお願い聞いてあげる」と言ってくれた。まるで、次に僕がまゆに何を言おうとしていたかわかっていたような様子だった。
「まゆ、ありがとう。じゃあ、お願いを聞いてもらっていいかな?」
「うん。いいよ。なんでも言って。りょうちゃんのお願い、叶えてあげる」
「ゆいちゃんのところまで連れてって」
「お安い御用だよ。まゆに任せて」
このまま、ゆいちゃんを放ってはおけない。ゆいちゃんとの繋がりは失いたくない。これからも、ゆいちゃんと友達でいたいし、同じ部活の仲間でいたい。
このまま縁切りなんて…して欲しくないしさせたくない。だから、もう一度だけ、きちんと向かい合いたい。お互いが本当に納得するまで、認めたくない。だから、ゆいちゃんの元へ行きたい。
まゆはそれを許してくれて協力してくれた。楽器を片付けた後、春香にも説明すると春香も許してくれたので、まゆの車でゆいちゃんの住むアパートに向かった。
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