第285話 目標と不安





「え、でも、りっちゃん、金管八重奏やるとして他のメンバーはどうするの?ユーフォとか…」


僕をアンサンブルに誘ってくださったりっちゃんさんにまゆが尋ねる。たしかに、ユーフォニアムは人数が少ない上にあーちゃん先輩が春香を含めたバリチュー三重奏を企画しているから2本持っていかれる。


「ユーフォは大丈夫。あらかじめたまちゃんにアポ取ってあるから」

「おー、たまちゃん出てくれるんだ。じゃあ、バリチュー三重奏は春香ちゃんとあーちゃん先輩とゆりこ先輩になるのかな?」

「そうだと思う」


まゆの質問に春香が頷く。ユーフォニアムパートは現在、その3人で活動しているためユーフォニアムパートは全員アンサンブル参加になる。たまちゃん先輩は春香やまゆと同い年の2年生で、しっかりしているように見えて意外と抜けているかわいらしい性格、ゆりこ先輩はあーちゃん先輩や及川さんと同い年の3年生、こちらはすごくおっとりしていてマイペースな性格だ。癖の強いユーフォニアムパートを上手くまとめているのが、しっかり者のあーちゃん先輩、というのが今のユーフォニアムパートの現状だ。


「で、どうかな?他のメンバーは今声かけているところだけど、トランペットはゆきちゃんは確定してて後でゆいちゃんとかに声かけてみようと思ってる。ホルンも適当に捕まえてトロンボーンも適当に捕まえるからさ、やろ!」


大半が適当ですけど大丈夫ですか?とちょっと不安になる。まあ、りっちゃんさんなら大丈夫か。それにしても…ゆいちゃん……か……この後、僕とゆいちゃんがどうなるかはわからない。だけど、もし、アンサンブルという形でつながりを残すことができたら……そんな感情も相まって僕はりっちゃんさんのお誘いを受けることにした。


「やります。やらせてください」

「やった!じゃあ、一緒に頑張ろう!」

「はい!」


とりあえず、アンサンブルに参加することを決めた。曲などはメンバーが決まってから、もし、金管八重奏が難しいなら金管五重奏か金管六重奏に変更の可能性もあると説明されて僕は了承する。


「りょうちゃんも春香ちゃんもいいなぁ…まゆもアンサンブルでたい…けど、サックスは難しそうだからまゆは頑張るりょうちゃんと春香ちゃんのサポートを一生懸命するね」

「まゆ、ありがとう」

「まゆちゃん、ありがとう」


まゆにお礼を言いながら、ホールの下手にある机に荷物を置いて、ミーティングが行われる舞台に向かう。


いつもはパート毎に座るのだが、今日は曲決めとかいろいろあってミーティングが長引いたり話したりすることもあるので自由に座る。僕は春香とまゆと一緒にりっちゃんさんと陽菜の側に座った。座ってからずっと、ゆいちゃんが来るのを待っていたのだが、時間になってもゆいちゃんが来なかった。


「はい。じゃあ、時間になったのでミーティング始めます。まず、パート毎に出席確認お願いします」


ホワイトボードを用意したあーちゃん先輩がそう言うとパートリーダーが次々とパートの出欠状況を報告する。チューバは及川さんが休団という形を取っているので、代理の春香が報告する。そして、トランペットパートのパートリーダーが今日、休みでいない為、ゆき先輩がトランペットパートの出欠状況を報告する。


「…………」


聞きたくなかった。最初の方はトランペットパートのパートリーダーが帰省でお休み。と言っていた。そして……


「ゆいちゃんは、体調不良でお休みです」


そう言ったゆき先輩の表情を見ると、困惑した様子や不安が感じられた。まるで…体調不良などではない。と語るような表情をするゆき先輩の表情を見て、僕は最悪の場合をイメージする。


「ちょっとまだ、準備に時間がかかるので少し待っててください」


あーちゃん先輩はそう言って慌ててホワイトボードに必要事項を記載していく。その間に、僕は席を外してゆき先輩に声をかけてゆき先輩と一緒にホールの下手側の舞台袖に向かった。


「ゆき先輩、ゆいちゃん…大丈夫ですか?」

「りょうちゃん、何か知ってるの?」


僕がゆいちゃんのことをゆき先輩に尋ねると、ゆき先輩は解放された。と言うような表情をした。きっと、誰にも言えず、一人でどうしたらいいかを考えていたのだろう。


「辞めたい…とか言ってたりしますか?」

「う、うん。今朝、突然連絡が来て…相談がある。って言われて話聞いてたら……」

「ゆき先輩、ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました。ゆいちゃんは、辞めさせません。絶対僕がなんとかします。だから、安心してください」


すごく不安そうで、追い込まれたような表情をしているゆき先輩に僕はそう言う。そして、ゆいちゃんに連絡を送った。会いたい。と……もし、返事がなかったら……意地でも会ってやる。このまま、やめて欲しくないし、このまま、関係を終わらせたくない。


ゆいちゃんに連絡を送った後、僕はゆき先輩と一緒に舞台に戻った。






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