第284話 次の目標





「今日、ゆいちゃんに会ったらちゃんとお話しするんだよ。悔いが残らないようにね…」

「うん。わかってるよ。心配してくれてありがとう」


お昼ごはんを食べた後、出かける準備をして僕と春香とまゆはまゆの車に乗る。まゆの隣に座ると、まゆが心配をしてくれたので、ありがとう。と言いながらまゆの頭を撫でる。


帰省シーズンもぼちぼち終わりを迎えて、今日から吹奏楽部の練習が再開される。コンクールが終わってからはコンクールの反省会や打ち上げなどをしただけで、あとは個人練や基礎合奏をするだけだった。帰省シーズンが終わり、ちゃんと部活に人が集まり始める今日の予定は、2月か3月に行われる予定の定期演奏会の曲決めだった。


帰省した時の行きの車で、定期演奏会で吹きたい曲を3人で話しながら聴いたりしていて、すでに僕たちの希望曲はあーちゃん先輩に提出済み。他の人たちも各々が吹きたい曲をあーちゃん先輩に送っていて、帰省の帰りの車であーちゃん先輩がまとめてくださった候補曲の一覧を全て聴きながら帰ったりしていた。自分たちが吹きたかった曲以外にもこれいいな。と思う曲がたくさんあって選びきれない。と言うのは定期演奏会の曲決めでよくあることではないだろうか。


理由を考えてみれば当然のことだろう。候補に上がった曲はどれも、半年間一緒に吹き続けてきた仲間が好きな曲や、思い出の曲、演奏してみたい曲など、それぞれがそれぞれのおすすめの曲を推薦している。魅力的でない曲があるわけない。故に、悩ましいが、どれが選ばれても納得できる。


定期演奏会は3部構成だ。1部はクラッシックステージで、コンクールで演奏した課題曲・自由曲に加えて数曲クラッシック曲を演奏する。2部はプロの方をお招きしてコラボステージをしたり、アンサンブル(少人数での演奏)ステージ、3部はポップスステージで大体2時間くらいは演奏する。めちゃくちゃ疲れるけど、それはコンクールと同様、楽しくてあっという間に過ぎ去ってしまう時間だと言うことを僕はもう知っている。だから、定期演奏会という舞台がすごく楽しみで頑張ろう。と思える。


「そういえば、りょうちゃんは今年、アンサンブルコンテスト出たいとか考えてる?」


車の中で春香が僕に尋ねる。アンサンブルコンテストは簡単に言うとアンサンブルのコンクールだ。金賞で代表に選ばれれば上位大会もあるし、全国大会だってある。


「うーん。どうだろう。でるとしたら金管かバリチューだよね」


チューバは大抵の場合、アンサンブルのチーム1つに1本で2本以上は中々見かけない。例えば、金管八重奏だとトランペット3本、ホルン1本、トロンボーン2本、ユーフォニアム1本、チューバ1本みたいな編成、バリチュー(ユーフォニアムとチューバ)だとユーフォニアム2本か3本にチューバ1本が普通って感じだ。


「春香は出るの?」

「うん。バリチューで三重奏やろうってあーちゃん先輩に誘われてる」

「そうなんだね。まゆはサックスで出るの?」

「えーわからないけど、出るとしたらサックス四重奏とかになるのかな?ソプラノアルトテナーバリトン1本ずつとか…まあ、サックスは出ないと思うよ。人数的にかなりきついし」


サックスは5人しかいないからなぁ…バリトンサックスのみはね先輩は忙しいから出てくれるかわからないし、陽菜もたぶん出たがらない気がする。となるとその時点でかなりきついか…


アンサンブルコンテストの面白いところは編成にある。フルートだけとかクラリネットだけとか木管楽器だけとか金管楽器だけとか打楽器だけとか、3人以上であれば割と自由で面白い。アンサンブルで面白いことと言えば、ホルンは何故か金管アンサンブルでも木管アンサンブルでも見かけるんだよな。定義が曖昧だったりする。


ちなみに、アンサンブルコンテストは大体、1団体2チームか3チームまでしか登録できなくて、団体の中で事前オーディションをして代表チームを決めたりもするらしい。


アンサンブルコンテストは考えてなかったけどやってみるのも面白いかもしれない。でも、チューバ1本しかいないから重みがすごいんだよな……


そんなことを考えていたら大学に到着して、ホールに向かう。


「春香ちゃん!金管八重奏やらない?」


ホールに入って早々にりっちゃんさんが春香に声をかける。タイムリーですね。


「りっちゃんごめん。あーちゃん先輩が先約で入ってる」

「まじか…じゃあ、りょうちゃんでいいや。金管八重奏やろ」


春香が申し訳なさそうに断ると矛先が僕に向いた。じゃあ、りょうちゃんでいいや。ってなんですかね……まあ、春香の方が上手いからそう言われても仕方ないけど地味に傷つく。


アンサンブルコンテスト…金管八重奏か…ちょっと、考えてみようかな。







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