第247話 打ち上げ





集合の時間になり、トラックから楽器をホールに移動させる。みんなまだ疲れが完全に取れていない様子だった。


楽器運搬が終わるとそのままお疲れ様会、打ち上げの時間、ホールで各学年が企画したレクリエーションを楽しみ、夜は打ち上げ。幹事は今回もりっちゃんさんが担当ですごく大変そうだった。今回も打ち上げの席はくじ引きで決まる。


「なんか運命みたいだね」

「ソウデスネ」


僕の隣に座るゆいちゃんが僕の腕をぎゅっと抱きしめながら上目遣いで僕に言う。ちょっと離れた席にいる春香とまゆからの殺気がすごいのでやめてください。りっちゃんさんは「りょうちゃんさぁ。毎度毎度面倒毎引き起こすのやめてくれない?」と僕に言うが、僕に言われてもどうしようもできないです。むしろ僕は被害者です。だって、春香とまゆがめちゃくちゃ機嫌悪そうにしてるもん。あ、春香がお酒頼んでる…やめて……


「酔いすぎは厳禁でお願いしますね。特にチューバパート…」


乾杯の時間、りっちゃんさんはため息を吐きながら及川さんと春香を交互に見て言う。うちのパートの先輩たちがご迷惑をおかけしてすみません。


「あと、未成年は飲酒禁止!ちょ、まゆちゃんに言ってるからね」

「まゆもう大人だもん!」

「あんたまだ19でしょ!りょうちゃん、なんとかして」


やけくそと言うようにまゆがみはね先輩が注文したお酒に口をつけようとしていたのを見てりっちゃんさんが慌てて止める。私の彼女さんたちがご迷惑をおかけしてすみません。


「なんでチューバパートとりょうちゃんの彼女たちはこうも扱いが大変なのかなぁ」

「ゴメンナサイ」


ゆいちゃんとは反対側の僕の隣の席にりっちゃんさんは座りため息混じりに言う。でも、僕、悪くないよね?くじ運だよね?


「ゆいちゃんも、あまり春香ちゃんとまゆちゃんに当て付けみたいなことするのやめなさい…」

「ごめんなさい……」


りっちゃんさんに叱られてゆいちゃんは僕の腕から離れる。ゆいちゃんには申し訳ないが、離れてもらえて助かった気がする。


「りょうちゃんも悪いからね。反省しないと、春香ちゃんとまゆちゃん本当に怒って愛想尽かしちゃうよ…」

「そう、ですよね…」


小声でりっちゃんさんに言われて反省する。たしかに、僕がゆいちゃんを完全に拒絶していればよかっただけの話だ。僕が戸惑って拒絶しなかったから春香とまゆは不機嫌になったのかもしれない。


「春香ちゃん、明日からチューバパートは春香ちゃんに任せたぁ。よろしくぅ」

「はぁい、はるかぁがんばりますぅ」


打ち上げが終わる頃にはチューバパートの先輩2人は完全に出来上がっていた。及川さんはまだ3年生であと1年ある。だが、及川さんは大学院への進学を考えていて今回のコンクールが終わったらパートリーダーは春香に委譲することが決まっていた。今後の定期演奏会や、来年のコンクール、定期演奏会は出られるかまだ未定と言うのが現状だ。


まだ、半年しか一緒にいなかったけど、すごく寂しく感じる。でも、及川さんが決めたこと、及川さんの進路だから、仕方ないことだ。僕も春香も及川さんを応援する。その上で、もし、今後も一緒に演奏してくださるのなら、喜んで及川さんの隣で吹かせていただきたい。(本人は春香に頼まれたら出る!って言ってくれてはいるので、たぶん、今後も一緒に吹く機会はあると思う)


「りょうちゃん、後輩として、あれ、どうにかしてね」


春香はともかく、先輩である及川さんもあれ呼ばわりするほどりっちゃんさんは呆れていた。ごめんなさい。本当にご迷惑をおかけしてごめんなさい。


「あはは。及川君は私が引き取るよ…」

「あーちゃん先輩、お願いします…」


及川さんをあーちゃん先輩が回収してくれた。僕は春香をおんぶして大学の駐車場までまゆと歩く。


「まゆ、ごめんね…」

「謝らないでいいよ。後でいっぱい春香ちゃんとまゆを愛してくれるならね」

「うん。ありがとう」


何に対して謝っているのかは言うまでもなかった。僕が謝るとまゆは僕に笑顔を向けてくれる。春香をおんぶしてなかったらきっと今すぐにでもまゆを抱きしめていたと思う。


「りょうちゃん、まゆも、部屋までおんぶして…」

「いいよ」


アパートの駐車場に到着して先に春香を部屋までおんぶで連れて行き布団の上にそっと寝かしつけてから駐車場にまゆを迎えに行きまゆをおんぶして歩き始める。


「りょうちゃんにおんぶされるの久しぶり。旅行の時以来だよね?」

「そうだね。あれ、まゆ、ちょっと重くなった?」

「りょうちゃん、そう言うことは冗談でも怒るよ」

「ごめんごめん。ちゃんと冗談だから安心して」


実際、まゆも春香も心配になるくらい軽い…すごく軽くて温かい。おんぶされながらぎゅっと僕を抱きしめてくれるまゆの身体はすごく温かく感じて幸せな気分になった。






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