第239話 コンクールの朝





「春香の意地悪…」


朝、シャワーを浴びてリビングに戻り、私と交代でゆいちゃんがシャワーを浴びに向かうとりょうちゃんにそう言われた。


「何のことかなぁ」


白々しく言ってみると、「僕が起きてたの知ってた癖に…」と口を尖らせて不満そうにしていた。かわいいなぁ。


「ゆいちゃんが私に嬉しいこと言ってくれたから少しだけりょうちゃんと2人きりにさせてあげたの」

「そっか…」

「うん」


自信がなかったのは本当。私は私に自信を持てない。


「ゆいちゃんの言う通りだよ。春香はかわいくて優しくて、料理も上手で家事も得意で面倒見が良くて気配り出来て春香にこれ以上何を望めばいいんだ。ってくらい春香は理想的な女性だよ。僕にはもったいないくらい…すごく、自慢の彼女だよ。だから、安心して」

「ありがとう」


朝から嬉しいことを言ってくれるなぁ。と幸せを感じながら私はりょうちゃんの横に寝転んでりょうちゃんをぎゅっと抱きしめる。


私は私に自信を持てない。それは本当だよ。でもね。私は信じてるんだ。私のことを好き。って言ってくれたりょうちゃんを…私のことを認めてくれたまゆちゃんにりっちゃん、陽菜ちゃん、ゆいちゃん、他のみんなも…私は信じてる。だから、自分に自信がなくても、私が信じてる人に信頼されている私は信じられる。私自身が私に自信を持てなくても大好きなみんなは信じられるから、私が大好きな人が信じた私を私は信じられる。


だから、自分に自信がない。と言っても、私は私がダメなやつだとは思わない。私の側にいる人たちが私を認めてくれているうちは……


そして、昔から自分のことをずっと信じてくれているこの愛おしい人の存在こそが、私の誇りだ。こんな素敵な人に信じられている自分すごい。って本気で思えるから。そのおかげで、私は今まで、自分に自信がなくてもいろいろなことを頑張って来れた。


「りょうちゃん、ありがとう」

「ん?」

「なんでもない」


りょうちゃんは頭に?を浮かべた様子で私に追求してくるが、私はえへへ。と適当に流していた。こんなこと、恥ずかしくて言えないもん。


「まゆが寝てる間にずいぶん楽しそうですねぇ。お二人さん」


私とりょうちゃんがそんなやり取りをしていたら側で眠っていたまゆちゃんを起こしてしまった。


「昨日、春香ちゃんがりょうちゃん独占して寝ててまゆ、寂しかったのに朝から2人でいちゃいちゃしてずるい…」

「あはは…昨日はごめんなさい…」

「ほんとだよ。まゆとりょうちゃん大変だったんだからね。反省して」

「ごめんなさい」


それに関しては謝るしかない。本当に申し訳ない。


「まあまあ、春香も反省してるしさ」

「りょうちゃん、春香ちゃんに甘い気がする。まゆが酔ってたら絶対怒ってたでしょ」

「そんなことないよ」


まゆちゃんが酔ったくらいでりょうちゃんは怒らない。(帰れなくてめちゃくちゃ困ったと思うけど)そんなことはまゆちゃんもわかっているだろう。まゆちゃんは私に目を向けた。


「昨日のお詫びで今朝は私が朝ごはん作るからまゆちゃんはりょうちゃんとゆっくりしてて…」

「うん。ありがと。なら許す」


私がそう言うとまゆちゃんは笑顔でりょうちゃんに抱きつく。かわいいなぁ。


「でも、ゆいちゃんもいるから変なことはしちゃダメだからね」

「はーい。キスくらいにしとく」

「キ、キスもダメ。それはずるいもん」

「冗談冗談」


まゆちゃんに揶揄われた私は台所に向かい朝食の準備をする。まゆちゃんは普通にりょうちゃんに膝枕をさせてもらいながらりょうちゃんとお話しているみたいだった。羨ましい…まゆちゃんは昨日、私がりょうちゃん独占してたって言うけど、酔っててほとんど記憶なかったんだから…


朝食を作り終えたくらいにゆいちゃんもシャワーを浴びてリビングに戻って来たので4人で朝食を食べる。そして、私とまゆちゃん、りょうちゃんはスーツに着替える。


「りょうちゃん、まゆがネクタイ結んであげる」

「ずるい…私が結ぶ」


コンクールの衣装は男子は礼服に蝶ネクタイ

女子はスーツにスーツパンツ、パンプスみたいな感じの服装と部内で決まっていた。りょうちゃんの蝶ネクタイをまゆちゃんが強引に取り上げてりょうちゃんにつけてあげようとしていたが、私もりょうちゃんに蝶ネクタイつけてあげたいの!


「ぼ、僕、上手くつけれるかわからないからつけてもらえると助かるけど、今からつけてると邪魔だから、会場ついてからでいいよ…」


と、りょうちゃんに言われて一時休戦、その後、私とまゆちゃんでジャンケンをしたら何故かゆいちゃんまで手を出してきて、しかもゆいちゃんが勝ってしまい、何故かゆいちゃんがりょうちゃんのネクタイをつけることになった。


それでいいよ。と納得したりょうちゃんが本当に信じられなくてアパートを出て、ゆいちゃんのアパートに向かい、大学に到着するまで私とまゆちゃんはりょうちゃんと一言も話してあげなかった。


結果、りょうちゃんが耐えきれなくなり大学の駐車場で車から降りた瞬間、私とまゆちゃんにガチ土下座をしたので条件付きで許してあげた。







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