第236話 コンクール前日





コンクール前日の練習は、どの楽団でも少し張り詰めた空気になる。本番前の練習はやはり、いつもの練習よりも気合いが入るし集中力も増すため、どうしてもピリピリしてしまうのだ。


「つ、疲れた〜」

「あはは…お疲れ様」


練習が終わり、楽器運搬のトラックに楽器を詰め込んだ後、緊張の糸が解けたまゆは僕にもたれかかって来た。僕はまゆを受け止めて練習や楽器運搬を頑張ったまゆを労う。


「りょうちゃん、まゆちゃん、お疲れ様。りょうちゃん、私も労って」

「はいはい」


僕は春香の頭を撫でて春香も労いホールの舞台に戻る。明日の日程について説明を受けた後は解散となり、僕と春香とまゆはホールを出た。いつもは残って練習したりする日もあるが今日は楽器がホールにないためホールにいてもやることがない。僕たち以外の人もホールを出ていて練習が終わってすぐにホールは閉められた。


「今日夜ご飯どうする?」

「明日の景気付けに外食しよーよ!」


僕が春香とまゆに尋ねるとまゆが笑顔で言う。練習終わりで、明日本番なのに春香とまゆにご飯を作ってもらうのも申し訳ないので僕たちは外食をすることにした。




「いらっしゃいませー」

「「「……………」」」


僕たちがお店に入るとりっちゃんさんが出迎えてくれた。え、今練習終わったばかりだよね?


「え、りっちゃん、今日もバイトなの?」

「違うよ〜陽菜と夜ご飯食べに来て店入ったら春香ちゃんたちが来たのが見えたから言ってみただけ」


よく見るとりっちゃんさんの後ろに陽菜がいた。りっちゃんさんの返事を聞いて春香は、だよね。と安心した表情をしていた。


せっかくなので相席しよう。ということになり、店の奥の6人掛けの座敷に5人で座った。


「あれ、まゆちゃんに、陽菜ちゃん、ていうかみんないるじゃん」

「みーちゃん、ゆきちゃん、お疲れ様」

「まゆちゃん、お疲れ様、隣座っていい?」

「もちろん」


偶然やってきたゆき先輩とみはね先輩が僕たちの隣の4人用の座敷席に座る。


「あれ、りょうくん!!」


しばらくしてまた店の扉が開くとゆいちゃんとさきちゃん、こう君がお店に入って来た。せっかくなのでゆいちゃんたちも相席することになり、ゆいちゃんが陽菜の隣に座り、さきちゃんとこう君がゆき先輩とみはね先輩の前に並んで座る。


そこからは打ち上げかよ。って思うくらいのテンションでみんなで食事を楽しんだ。


「景気付けにお酒のむわ!」


と、みはね先輩がいい出してからみんなのテンションがおかしくなった。何がやばいかって…


「りょうちゃん、はるか、うまくたべられないからぁ。りょうちゃんがたべさせてぇ」

「りょうくん、わたしもぉ、はるかせんぱいやまゆせんぱいみたいにかわいがってぇ」


春香とゆいちゃんが場酔いした。暴走する春香をまゆが止めてゆいちゃんをさきちゃんが止めた。


「りっちゃんさぁん……はるなもぉ、りっちゃんさんにかわいがってほしい…」


陽菜まで場酔いした。もうダメだこれ、カオスすぎる。もう収集つかなくなったのですぐに解散になった。


「りっちゃん、大丈夫?」

「う、うん。なんとかする」


陽菜は今日、もともとりっちゃんさんの家にお泊まりする予定だったのでりっちゃんさんが引き取っていった。僕とまゆはりっちゃんさんに手を振って2人を見送る。


「えっと、まゆちゃん、りょうちゃん、本当にいいの?」

「まあ、仕方ないよ…」


ゆき先輩とまゆが完全に酔い潰れたゆいちゃんを見る。この酔い潰れたゆいちゃんを1人で帰らせて何かあったり明日寝坊されたりしたら困るのでゆいちゃんは今日うちで引き取ることになった。明日少し早く起きてゆいちゃんのスーツを取りにゆいちゃんのアパート行かないといけなくなったが、まあ、特には問題ない…はず……


「ゆきちゃんこそ、大丈夫?」

「まあ、慣れてるから…ほら、みーちゃん行くよ!」

「はぁーい」

「りょうちゃん、まゆ先輩、ゆいをお願いします」

「「はーい」」


酔い潰れ騒動のきっかけを作ったみはね先輩はゆき先輩に引っ張られて駅に向かう。その後を追ってこう君とさきちゃんが手を繋いで歩いていた。


「まゆも酔っちゃおうかなぁ」

「お願いだからそれだけはやめて…まゆが酔わないでいてくれたことが唯一の救いだしまゆが酔ったら今日、車中泊だよ」

「あはは…笑えないね…」

「うん」


僕は春香を、まゆはゆいちゃんをまゆの車の後ろに乗せてしっかりシートベルトをつける。その後、まゆの運転でアパートに帰り、完全に眠ってしまった春香とゆいちゃんを僕はおんぶして頑張って部屋に運んだ。


ゆいちゃんを春香とまゆの部屋のベッドに寝かせて春香はリビングの布団に寝かせる。僕とまゆはお風呂に入って汗を流し、歯磨きなどを済ませた後、アラームをつけて春香の横で眠った。


コンクール前日なのにめちゃくちゃ疲れた……





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