第206話 不機嫌な彼女
「えへへ。りっちゃんさん。練習始まるまで陽菜といちゃいちゃしましょう」
「こーら。あんまり大きな声で言わないの。恥ずかしいでしょ」
「えへへ。ごめんなさい」
そう言いながら私の肩に頬を擦り付けて微笑んでいる私の恋人が可愛すぎる。
「ねぇ、陽菜、少しだけ真面目な話していい?」
「………いいですよ〜」
陽菜ちゃんは姿勢を整えて、私の話を真剣に聞く意思を示してくれる。
「合宿、今日で3日目だけど体調は大丈夫?」
「はい!大丈夫ですよ。元気いっぱいです」
「そっか。それなら安心。本題だけどさ…コンクール、どうする?」
「陽菜が出たいって言ったらりっちゃんさんはどうしますか?」
「一緒に頑張ろうって歓迎するよ」
「出ないって言ったらどうしますか?」
「陽菜の意思を尊重する…かな、一緒に吹けなくて残念だけどね…」
「じゃあ、出ます!」
陽菜ちゃんはあっさりとそう言った。
「大丈夫…なの?」
「大丈夫ですよ。今すぐどうこうなるわけじゃないですし、本当に万が一のために出ないって決めてましたけど、まゆ先輩もみはね先輩も…一緒に出たいって言ってくれてて…今日、合宿が終わった後に出るか出ないか決めてって言われてましたけど、昨日、みはね先輩にいろいろ言われた時点で出るって決めてました」
陽菜ちゃんは笑顔で私に言う。陽菜ちゃんが笑顔で出ると言うなら止める理由はない。
「無理したら怒るからね。無理だけはしないように一緒に頑張ろう」
「はい。頑張りましょう。陽菜、いっぱい練習頑張ります。あ、そうだ。今度、教えてください」
「えー、陽菜に教えるなら私よりみーちゃんの方が適役でしょ。あの子のことだから陽菜に教えてほしいって言われたらいつでも教えてくれると思うよ」
「陽菜はりっちゃんさんに教えて欲しいんです」
頬を膨らませて不満を現しているが、私、サックスじゃないから教えられること限られてるぞ…
「わかったよ。じゃあ、今度教えてあげる。一緒に練習しよ」
「はい!約束ですよ!」
「うん。約束」
陽菜ちゃんが小指を私に向けてきたので私も小指を陽菜ちゃんに向けて小指と小指を結んで約束する。
「りっちゃんさん、今日一日、陽菜が頑張れるようにおまじないして欲しいです」
「おまじない?」
「は、はい」
陽菜ちゃんは顔を赤くしながら物欲しそうな表情で私をじっと見つめて、身を乗り出して私を抱きしめて顔を私に近づける。
「一回だけ、だよ」
「は、はい…」
私は片手で陽菜ちゃんを抱きしめて片手を陽菜ちゃんの顎にそっと当てて陽菜ちゃんの顔を固定する。そしてそのまま陽菜ちゃんに顔を近づけて私と陽菜ちゃんは初めての口付けをする。
「はぁ…はぁ…りっちゃんさん、大好き…です……」
初めてのキスを済ませると陽菜ちゃんはもう我慢できない。と言うように私をさらに強く抱きしめて私の胸の辺りに顔を押し付ける。
「ちょ、陽菜…だめ。ちょっと!だめ。ほら。落ち着きな」
完全に我を失い本能のままに動き出した陽菜ちゃんを私は強引に私から遠ざける…ケダモノめ……
「………ご、ごめんなさい」
「そういうのは他に絶対に誰もいないところで2人きりになった時以外絶対禁止だからね」
「はい。反省します」
「なら良し」
強引に遠ざけてしまった為、陽菜ちゃんのことを拒絶したと思わせてしまったかもしれない。なので、ちゃんと陽菜ちゃんのことは大切に思ってるよ。と言うことを伝える為に、反省の姿を見せた陽菜ちゃんの頭を優しく撫でてあげる。
「そろそろ練習の時間だし、行こうか」
「はい!」
先に私がソファーから立ち上がり陽菜ちゃんに手を伸ばす。陽菜ちゃんが私の手を握ると私は陽菜ちゃんを引っ張って、陽菜ちゃんをソファーから立たせて2人で手を繋いで練習の部屋まで向かう。
「りっちゃんさん、エスコート完璧でまじイケメンです」
「………一応、私、女の子だからね」
「わかってますよ。でも、どちらかと言うとりっちゃんさんが彼氏枠ですよね」
「そうなるのね…まあ、なんでもいいや」
そんなしょうもないやり取りをしながら手を繋いで歩いていると正面から春香ちゃんとりょうちゃん、まゆちゃんが3人で手を繋いで歩いてきた。りょうちゃんが中心で春香ちゃんとまゆちゃんが両サイドからりょうちゃんと手を繋いでいる。
「じゃあ、練習頑張ってね」
「はい。また後で会いましょう!」
サックスパートの練習部屋まで陽菜ちゃんを送る。りょうちゃんと春香ちゃんもまゆちゃんをサックスパートの練習部屋まで送るためにこちらに来ていたみたいだ。
「りょうちゃん、春香ちゃん、練習頑張ろうね」
「はい。頑張りましょう」
「うん…」
りょうちゃんと春香ちゃんと一緒に歩いていると春香ちゃんの元気がないような気がした。朝から春香ちゃんの様子がおかしい気はしていたが……後で話す必要、あるかな…
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