第205話 合宿、練習前




「りょうちゃん、大丈夫?」


朝食の時間、眠れていなくてうとうとしていた僕を隣に座っていたまゆが心配してくれる。合宿2日目の夜、男子部屋はうるさくて寝られなかった。1日目より人数が増え、バカみたいに話が盛り上がっていた。恋話を深夜までして、そのテンションで大富豪が始まり最下位は恋話の秘蔵エピソード暴露という罰ゲームが設定されたせいでみんな死ぬ気で頑張り、あの状況で寝られた人はいない。僕と同じ男子部屋に泊まっていた男子はみんな徹夜だ。


「昨日寝れなかっただけだから大丈夫だよ」

「今日も寝れないのに大丈夫?」

「………勘弁してください」


割と真面目な表情で僕がまゆに言うと「冗談だよ」と笑顔で言ってくれたのでちょっと安心した。2日連続で徹夜は辛い……


「春香、どうかしたの?」


僕の隣で普段とは違う表情をしていた春香に僕が尋ねたのだが、春香は何も返事をしてくれない。


「春香、大丈夫?」

「え、あ、うん。大丈夫、だよ」


僕が心配していることに気づいて春香は慌てて表情を取り繕う。


「朝、何かあったの?」


春香の様子を見て心配に思った僕は小声でまゆに尋ねる。


「りょうちゃん成分が足りなくて元気がないんだよ」

「冗談言ってないで…」

「えー、まゆはりょうちゃん成分足りなくて少し元気ないんだけど…」

「はいはい。合宿終わるまで我慢してください。で、春香は何かあったの?」

「うーん。拗ねて嫉妬してる?かなぁ」

「え、僕、まゆを特別扱いしちゃってた?」


昨日はあまりまゆと2人きりでいなかったし、どちらかと言うと春香を特別扱いしていた気が……


「そうじゃないよ。陽菜ちゃんにりっちゃん取られて寂しがってるの」

「あー、なるほどね」


僕たちの正面に座りいちゃいちゃした感じで朝食を食べている陽菜とりっちゃんさんを見て納得する。陽菜とりっちゃんさんを見る春香の目が怖い……


「今のうちに春香ちゃんのご機嫌とっておかないと後で大変なことになるんじゃない?」


まゆがにこにこしながら僕に耳打ちする。そんなこと言って僕が春香のご機嫌取りをしたら「春香ちゃんだけズルいよね」って言って春香にしたことと同じことを要求してくるんだろうなぁ。ちゃっかりしてる。


「春香、はい。あーんしてあげる」


僕は卵焼きを箸で掴み春香の口元に運ぶ。春香は顔を赤くしながら「え、急にどうしたの?」と尋ねてくるが、幸せそうな表情でパクリと卵焼きを食べてくれる。かわいい。その後、春香にお返しで卵焼きを食べさせてもらうとまゆがツンツン。と僕の腕に指を押し付ける。


「春香ちゃんだけズルいよね」


僕が予想していた通り笑顔でまゆが僕に言う。単純でかわいい。僕はまゆにも卵焼きを食べさせてあげてお返しに卵焼きを食べさせてもらう。


「朝からバカップルがいちゃいちゃしてるわ…」

「みーちゃん、うるさい」


僕と春香とまゆの幸せなやり取りをニヤニヤした表情でゆっくりお茶を飲みながら眺めていたみはね先輩の存在に気づき、僕たちは3人とも顔を赤くする。


「りょうちゃん、今日もさ…朝ごはん食べ終わったら練習始まるまで3人で一緒にいたい」

「うん。いいよ。まゆも大丈夫?」

「うん。もちろんだよ。春香ちゃんからりょうちゃんにお願いするって珍しいね。いつもはまゆがお願いするのに」

「たまには…いいかなって……」

「春香、いつでも言ってくれていいからね」

「うん。ありがと」


りっちゃんさんが陽菜とばかり一緒にいる寂しさからなのかはわからないが、春香が僕にお願いをしてくれるのは素直に嬉しい。





「りょうちゃん、大丈夫?眠いの?」


朝食を食べ終えた後、昨日の朝と同じ場所で僕と春香とまゆは一緒にいることにした。ソファーに座り欠伸をしながら目を擦ると春香が僕に尋ねる。朝食を食べていた時のまゆとのやり取りは春香の頭に入ってなかったみたいだ。


「うん。昨日寝れなかったから…」

「じゃあ、今日は昨日のお返しにりょうちゃんを膝枕してあげる。練習始まる時間まで私を枕にしてくれていいよ」


春香は笑顔でそう言いながら自身の太腿をポンポンと叩く。春香の太腿、柔らかくて寝心地最高なんだよね…


「えー、春香ちゃんだけズルい!まゆも!」


春香から少し離れた場所に座りまゆも春香のようにポンポンと自身の太腿を叩く。まゆの太腿も柔らかくて寝心地いいけど、まゆに膝枕してもらうとすぐに耳くすぐったりイタズラしてくるからちゃんと寝れないんだよね。


「「りょうちゃん、どっちを選ぶの?」」


朝から究極の2択…選ばなかった方は今日一日ずっと機嫌が悪くなるやつ。どうしよう。


普通に考えればこれ以上春香の機嫌を悪くしたくないし、春香に膝枕してもらった方が時間いっぱいゆっくり眠れる。だけど、僕は機嫌悪いまゆを見たくないし、まゆに寂しい思いをさせたくない。


こういう時は…


「時間半分にして交代じゃだめかな?どっちも魅力的すぎてどっちかなんて選べないよ」

「み、魅力的…う、うん。それで、いいよ……」

「まゆも!それでいいよ」


どちらも取る。これが最適解のはず。

まずはまゆに膝枕してもらう。僕がまゆの右側から膝枕してもらうと春香はまゆの左側から膝枕をさせてもらっている。


まゆの時間が終わると、春香とまゆは位置を入れ替わる。朝から幸せすぎる。春香の機嫌もよくなりすごくいい朝だった。




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