第154話 久しぶりの感覚
「まゆ、たぶんだけど今日、まゆのお父さんが来てくれてたよ」
「え、お父さんが!?」
バイトが終わり駐車場まで手を繋いで歩いている途中で僕がまゆに言うとまゆはとても驚いた表情をしていた。
「うん。まゆが春香と春の対応している時くらいにね。娘をよろしくお願いします。って言われたよ」
「そっか…」
「まゆ、一回さ、まゆの家行ってみない?お父さんも心配してるから様子を見に来たんだろうしさ、一度だけちゃんと話した方がいいんじゃないかな?僕も、まゆのお父さんと話してみたいしさ」
僕がそう言うとまゆは困ったような表情をする。嫌…なのだろうか…でも、やっぱりこのまま今のような関係でいるのはまゆにとってもよくない気がする。一度だけ、お父さんと話した方がいい。
「まあ、まゆが嫌ならいいけどさ…その…やっぱりいつかはちゃんと話した方がいいと思うよ」
結局はまゆを甘やかしてしまう。そんな自分が少しだけ嫌だった。まゆのことを本当に想っているのなら…どうするべきなのだろう……
「りょうちゃん、ありがとう。りょうちゃん、お願いがあるの。聞いてくれる?」
「うん」
「まゆと一緒に来て」
「わかった」
どこに?とは聞かない。きっと…まゆは向き合うって決めたのだろうから…僕は春香に帰るの少し遅くなるから春と先にご飯食べてて。と連絡を入れた。
「まだ数日しか経ってないのにすごく久しぶりのような気がする…」
まゆの車に乗ってから十数分で目的地に到着した。まゆの車から降りてまゆと手を繋いで扉へと向かう。
「ねえ、りょうちゃん。たとえどんな結果になってもまゆはりょうちゃんと春香ちゃんと一緒に暮らす。それでもいい?」
「もちろんだよ。認めてもらおう」
「うん」
インターホンを鳴らす前に僕とまゆはキスをする。まゆはありがとう。勇気出た。と僕に言い、今までは押すことがなかったインターホンのボタンを押す。
「春ちゃん、りょうちゃんとまゆちゃん帰りがもう少し遅くなるみたいだから先にご飯食べちゃう?お腹すいているでしょう?」
りょうちゃんから連絡を受けた私はソファーでスマホをいじっていた春ちゃんに尋ねる。たぶん、りょうちゃんとまゆちゃんはまだまだ帰ってこないだろう。たぶん…日付けが変わるくらいの時間になるのではないだろうか…と私は考えている。
「え?お兄ちゃんたちどうしたの?」
「うーん。ちょっとだけ寄り道しているの。まゆちゃんの忘れ物を2人で取りに行くんだと思うよ」
今日、りょうちゃんとまゆちゃんの帰りが遅くなる理由なんてそれくらいしかないよね。頑張ってね。りょうちゃん、まゆちゃん。
「ふーん。じゃあ、先に食べちゃお」
春ちゃんはそう言いながら先程私と春ちゃんで一緒に作った夕食を食べるためにテーブルの椅子に座る。私は春ちゃんの分のごはんと冷蔵庫から春ちゃんの分のサラダを運ぶ。その後、ハンバーグを電子レンジで温めて一緒に作ったホワイトシチューを温め直してから春ちゃんに運ぶ。
「春香ちゃんは食べないの?」
「うん。りょうちゃんとまゆちゃんと一緒に食べるから」
「そっかぁ、やっぱり春香ちゃんは将来いいお嫁さんになれそうだよね」
「そうかなぁ?」
春ちゃんに笑顔で言われて私は少しだけ照れてしまう。お嫁さん…かぁ……
「春香ちゃん、ごめんね。お兄ちゃんが…」
「春ちゃん、それ以上言ったら私怒るよ」
春ちゃんが申し訳なさそうに言おうとした言葉を私は遮った。そんな言葉聞きたくないし、言われたくないから。私は、今の関係を気に入っている。ずっとこのままでいい。幸せだから。
「ごめん…」
「いいよ。私こそごめんね。ちょっと怖かったよね」
「うん…春香ちゃん…怒ると怖いから……今、怖いって感じて結構焦った……」
怒ると怖い?そう…かなぁ?普段あまり怒ったりしないや。昔、りょうちゃんに怒っている時の春香は殺気みたいなものを放っていて怖い。と言われたことを思い出した。私、怒ると怖いんだ……怒っている時のことなんて自分では意識してないからなぁ…
「春ちゃん、私はね。本当に今幸せだからさ…謝らないでね。私の幸せを否定して欲しくないから」
「わかった」
「うん。素直でよろしい」
私は食事中の春ちゃんの隣の椅子に座って春ちゃんの頭を撫でてあげる。すると春ちゃんは照れくさそうにやめてよぅ。と言い私の手を払う。なんか、少し春ちゃんが大人になったように感じた。昔ならこれで喜んでくれたのに…
「春香ちゃんがいいって言うなら…私に止める権利はない。と思うし…まゆさんも…お兄ちゃんも納得してるなら…」
「ふふふ、まゆさん。ねぇ、まゆお姉ちゃんはどうしたのかなぁ?」
「と、当分は言わない約束なの!」
春ちゃんは照れくさそうに言う。どんな約束なのかなぁ?春香お姉ちゃん気になるなぁ。
「本当に…普通の恋…じゃなくていいの?」
先程までの笑顔を消して、最後に。と真剣な表情で春ちゃんは私に尋ねる。
「うん。私たちは幸せだから…」
「そっか…なら、これからもお幸せにね」
春ちゃんは私の答えを聞いて満足そうに微笑み私にそう言ってくれた。春ちゃんにそう言ってもらえて、私はすごく嬉しかった。
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