第153話 認められるために





「りょうちゃんの部屋でりょうちゃんと2人きりで寝るの久しぶりだね」

「そうだね」


僕の部屋にあるベッドの上で僕と春香は並んで横になる。たしかに、僕の部屋で春香と2人で寝るのは久しぶりだ。いや、僕の部屋のベッドで寝ることが久しぶりのような気がする。いつもリビングで布団を並べて寝ていたから。今日は春ちゃんと一緒に寝たい。とまゆが言い出したので僕と春香は同意した。まゆと春は隣の春香とまゆの部屋で寝ている。まゆと春が一緒にお風呂から出てきたあと、春はいつもの春に戻っていた。たぶん、まゆと何か話したのだろう。その上でまゆが春と一緒にいることを望むのならば止める理由はない。


「寝れない…」


春香がボソッと呟いた。少し顔が赤くなっていて心臓の鼓動が早まっているように僕は感じた。


「どうして?」

「りょうちゃんと2人きりで寝るの久しぶり…」

「一昨日2人で寝たじゃん」

「あの時は余裕なかったから…それに、寝たって言うよりかは寝落ちしたって感じだったし…」

「そうだね…」


たしかに、あの時はまゆの指輪を探した後だったし、春香は泣き疲れて寝た感じだったな…それより前は、ずっとリビングで寝ていたからな…言われてみるとゆっくり2人きりで寝るのは久しぶりだ。


「春香が寝るまで起きてるよ」

「ありがとう…」


僕が春香をギュッと抱きしめると春香も応えるように僕を強く抱きしめてくれた。そしてそのままキスをする。その後は2人でいろいろな話をした。春香が眠りに就くまでゆっくりといろいろ話を出来てすごく幸せだ。僕は眠ってしまった春香にそっとキスをする。起きないように、そっと、優しく、温かい春香の感触を感じた後、僕も寝ることにする。春香をそっと抱きしめながら…




ずっと、春ちゃんと2人でお話をした。春ちゃんには昔のりょうちゃんと春香ちゃんのことを教えてもらった。春ちゃんの名前は春香ちゃんのことを気に入っていたりょうちゃんの両親が春香ちゃんみたいないい子になって欲しいと願って名付けたこと、春香ちゃんの弟のりょうた君はりょうちゃんに似て欲しいと春香ちゃんの両親が名付けたみたいだ。いつか、りょうた君にも会ってみたいな。他にもいろいろな話をした。話を聞けば聞くほど、春ちゃんがどれだけ春香ちゃんを慕っているか分かった。まゆもいつか、春香ちゃんと同じくらい慕ってもらえるようになりたいなぁ…


まゆはりょうちゃんと春香ちゃんと付き合うことになったきっかけなどを春ちゃんに話した。大学に入ってから春香ちゃんと出会い、一年後にりょうちゃんと出会ったこと、様々なことを話した。春ちゃんはまゆの話を聞いてくれた。


気づいたら春ちゃんは眠っていた。まゆは春ちゃんに掛け布団をかけてあげて春ちゃんの頭をそっと撫でてから眠った。




「じゃあ、春ちゃん、春香ちゃん、また後でね」

「うん。バイトがんばってね」


翌日の午後、バイト先の駐車場に車を止めてまゆはりょうちゃんと一緒にバイトに向かう。春香ちゃんと春ちゃんは今からショッピングセンターでいろいろ買い物するみたいだ。後で本屋さんにも来てくれるみたいだから楽しみ。


まあ、ゴールデンウィークですごく混雑してるから春香ちゃんと春ちゃんに構っている余裕ないかもしれないけど……


まあ、いいや。バイト頑張ろう。


まゆはりょうちゃんと一緒に本屋さんに向かう。案の定本屋さんも混雑していて到着して早々にドタバタと忙しいバイトが始まった。




「りょうちゃん、りょうちゃんは今日ずっとレジにいて。まだ、新人のりょうちゃんは今日レジから絶対に動かないで、レジの対応だけひたすら頑張って。もし何かあれば絶対に誰かに言うこと。それだけ頭に入れて一人でレジ頑張ってね」

「う…うん。わかった」


本屋さんに入る前にそうまゆに言われた僕はバイトが始まってからずっとレジにいた。僕だけでなく、まゆも僕と一緒にずっとレジにいる。普段、レジはあまりしないで裏方の作業とかいろいろしている店長も今日はレジに立ち3人体制でひたすらお客様の対応していた。まじで忙しくてひたすら流れ作業のようにレジをする。たまにお客様の列が消えることがあるが、すぐに列が再構築されてキリがない…



ずっとレジを打ち続けて1時間ほどすると春香と春が本屋さんに来てくれたが、一言も話す余裕はなさそうだ。春香と春はまゆが担当していたレジに向かう。ちょうど、お客様の列が消えるタイミングだったので、まゆはお会計や本にブックカバーを付けて袋詰めをしている間に少しだけ春香と春と楽しそうに会話をしていた。 


「お待ちのお客様こちらのレジへどうぞ」


1人の男性がレジに並んだので、僕は声掛けをして男性の対応をする。


普通に対応をして、お会計が終わり商品をお客様に渡すとお客様は僕を見つめた。


「今日は忙しそうですね。それでも…娘はすごく幸せそうです。りょうくん、だったかな?娘をよろしくお願いします」 


男性は僕にそう言い残して本屋さんを出て行った。まゆは気づいていないみたいだ。


やっぱり…まゆのこと心配してくれているんだな。


絶対、まゆを幸せにします。いつか、きちんと認めてもらいます。僕と春香とまゆが3人でいることを…






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