第114話 とどいた。





いろいろな音が…私を苦しめる気がした。りっちゃんさんの音はすごいと思った。その後の2本のチューバとテナーサックス…聴いててつらい。わかっているのに…諦めるって決めたのに…やっぱりつらいよ……


あ…駄目なやつだ…これ以上考えたら駄目だ…もう、集中できてない…吹けない…やばいなぁ…この気持ち…まだ消えてない…いつになったら消えるんだろう…早く消さないとな……


そんなことを考えていたら合奏は崩壊した。私が…崩壊させた。


気持ち…ちゃんと整理しないとな………





通し合奏が中断され、各パートで反省や、練習の時間になった。


「りょうちゃん、及川さんが今から先生と打ち合わせらしいからパート練は2人でやるよ。今からしばらく、個人で反省ね。30分後にパート練でいい?」

「うん。了解」


春香に返事をして、僕はチューバと楽譜を持って1人で練習をするためにいつも個人で練習をしている舞台の下手に向かう。下手に置いてある椅子にチューバを立てかけて練習をする前に、水分補給をする。


「ねえ…」

「うお……」


お茶を飲んでいたら突然後ろから声をかけられて僕は驚いて、後ろを振り向いた。そこにはフルートパートの1年生さきちゃんがいた。大人しそうな女の子は僕が驚くと少し驚いた表情をして、少しもじもじしてから意を決したように口を開いた。


「少しだけでいいからさ…ゆいのところに行ってあげてほしい。たぶん、ゆいはりょうちゃんを必要としてるから…お願い……」


大人しそうなさきちゃんにそう言われて僕は驚いた。ゆいちゃんのところに行ってあげて…か…どうなんだろう……たしかに、さっきの合奏……ゆいちゃんは苦しんでいるようだった……たぶん……理由は……だとしたら…僕が側にいたら余計苦しんでしまうのではないだろうか……


「お願い……」

「わかった。ありがとう」


さきちゃんに押されて僕は了承した。さきちゃんにありがとう。ゆいをよろしくね。と言われて僕はゆいちゃんの元に向かう。先程、ホールを出て行ったとさきちゃんが教えてくれたので僕はホールを出てゆいちゃんを探す。たぶん…居場所は……





「やっぱりここにいた…」


合奏が終わり、少し落ち着きたくて私はホールを飛び出してホール近くのベンチに座っていた。そんな私にあの人は声をかけてくれた。やめてよ…ね…また、愛しちゃう…から……


「りょうくん、どうしたの?」

「なんか、苦しそうだったからさ…心配で……」


りょうくんは息をきらしながら私の質問に答えて隣に座っていい?と尋ねた。私はいいよ。と返事をして、りょうくんが隣に座るのを待った。すごくドキドキする。熱い…心が…熱くて…苦しい……


「もし、ゆいちゃんを苦しめてたらごめんね。悩んだんだ。僕といても辛いだけかもしれないから探さない方がいいかなって…でも、さきちゃんにお願いされてさ…ゆいをよろしくね。って言われて…もし辛かったら言って…いなくなるから…」

「さきがそんなこと言ってくれたんだ…嬉しいな…りょうくんもありがとう。わざわざ来てくれて…もし、よかったら少しだけいてくれないかな…」


駄目…離れないと…駄目…諦められなくなる。なんで…わかってるのに…駄目って…でも…それでも…あなたと一緒にいたい。私は…やっぱり……あなたが大好き……


「大丈夫?」

「大丈夫じゃない…もう、吹けないじゃん…あんなに心が込められた演奏聴かされたらさ……」

「りっちゃんさんのこと?」

「違う…春香先輩と、りょうくんとまゆ先輩の演奏…特にまゆ先輩…何あれ……凄すぎるでしょ……最初聴いた時は上手いなぁ…って思うくらいだったのに…何で数週間であんなに音が変わるの…どうやってあんなに音に感情を込めてるの……たぶん……あの音はみんなには凄くて心地良い音…でも…私は聴いてて辛かったの…」


私は何を言っているのだろう…りょうくんに向かって何を言っているの……わからない……私はりょうくんに何を求めているの……


「さっきのゆいちゃんの音さ、割と好きだったよ。って言ってもたぶん、ゆいちゃんは信じてくれないよね。たしかにさ、酷かった。指揮無視して暴走始めるし不安定だし音めっちゃ外れてたし…でも…好きだったよ。なんていうかさ、負けたくない。って想いが伝わってきた。ゆいちゃんの音にも感情がちゃんと込められてた。すごかったよ。まゆもね…最初はめちゃくちゃ不安定だったんだ。でも、ちゃんと気持ちを…感情を自由に表現できるようになった。ゆいちゃんの音もさ、まゆの音に似た感じがするんだよね。ありがとう。ゆいちゃんの想い…ちゃんと届いてるよ」


そっか…私の想い…届いたんだ。


負けたくない。まだ、諦めたくない。諦めよう、諦めなければならない何度もそう思ったが、無理だった。私はまだ戦いたい…私の心が折れるまで…そう思っていたのだろう。


届いたんだね。私の想いは…ありがとう。ごめんなさい。まだ、あなたを諦められないよ………





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