第110話 想いさえあればいい。




「ずっと…私とまゆちゃんと、りょうちゃんと仲良しでいて…でも、りょうちゃんは絶対に渡さない。わがままでごめんなさいだけど…お願い」

「春香ちゃん…ありがとう。大好き…本当にいいの?春香ちゃんを裏切った私が春香ちゃんの側にいて……」

「うん。いいよ。許す。これからも私と親友でいてくれるならね……それに……もしかしたら、逆の立場になる可能性だってあったわけだしさ……」


逆の立場になる可能性…か……そんな可能性、なかったと思う。私では…春香ちゃんとまゆちゃんには敵わないから……ありがとう。


私はずっと泣き続けた。泣き続ける私を春香ちゃんは抱きしめてくれた。しばらくして泣き止んだ私は今日、お泊まりする気がなくて何も持ってきていないことを春香ちゃんに伝えると、春香ちゃんが私の部屋にお泊まりに来ることになった。


本当に…これでいいのだろうか……と思いながら私は春香ちゃんと手を繋いで先程歩いた道を歩き始めた。春香ちゃんの手は…温かかった。それに比べて…私の手は…まだ…罪悪感で冷えたままだった。


「りっちゃん、今日は一緒に寝ようね」

「うん」


私の部屋に入ると、春香ちゃんはベッドにダイブした。春香ちゃんはお風呂に入ってから来たのですぐに寝れる状態だが、私はまだお風呂に入っていなかった。夜も遅いので軽くシャワーを浴びてパジャマに着替えて私は春香ちゃんの横に座り髪を乾かしたあと、部屋の電気を消して春香ちゃんと一緒にお布団に入る。


「あ……」

「どうしたの?」


アラームをセットしようとスマホの画面を開いたらまゆちゃんからめっちゃ着信が来ていてりょうちゃんからもたくさんのメッセージが届いていた。まゆちゃんにはまだ…許してもらっていないので…今度直接会って謝ろう。りょうちゃんには心配かけてごめんなさい。今、春香ちゃんと一緒にいるよ。春香ちゃんにきちんと話して許してもらえた。まゆちゃんにも今度ちゃんとお話しするって伝えてほしい。と返信をした。するとすぐに既読がついて、了解です、春香に許してもらえたならよかったです。まゆも許してくれますよ。ちゃんと話してあげてください。と返信が来た。春香ちゃんはそれを見て、大丈夫。まゆちゃんも私と同じだから…と言い私に抱きついて来た。私はありがとう。と春香ちゃんに言い、春香ちゃんを抱きしめる。


こうやって、春香ちゃんと2人きりでお泊りして、同じ布団で2人で寝るのは久しぶりだな…と思う。抱きしめている春香ちゃんの柔らかさ…春香ちゃんに抱きしめられる心地良さ…春香ちゃんのシャンプーの匂い…久しぶりに味わう春香ちゃんと2人きりの時間……やっぱりこの時間は好きだ。


「りっちゃんとこうやって寝るの久しぶりだなぁ…」

「そうだね」

「ねえ、りょうちゃんがいない時はさ…こうして一緒に寝てくれない?私、1人じゃ寂しくて寝れないからさ…りっちゃんが何かあった時とかも呼んでくれたら一緒にいるからさ…お願い」

「いいよ。じゃあ、りょうちゃんがいない日はお泊まりしよう」

「やった。嬉しい。ありがとう」


春香ちゃんは本当に嬉しそうな表情で言う。ありがとう。と言わなければならないのはこっちなのにな…本当に春香ちゃんはいい子だ。かわいくて、優しくて、ちょっと天然でおバカなところはあるけど、それもかわいい。それに家事全般完璧だし…こりゃあ敵わないわ……


「りっちゃん、大好きだよ。おやすみ」

「ありがとう。私も、春香ちゃんのこと大好きだよ。おやすみ」

「うん。りっちゃんと離れたくないからさ…今日はずっとこうしてるから…」

「今日は…ねぇ…いつもじゃん」

「嫌だった?」

「嫌じゃないよ。むしろ嬉しいよ」

「じゃあ、りっちゃんと2人きりで寝る時はずっとこうしてる」


春香ちゃんは私を抱きしめる力を少し強くして満面の笑みで私に言った。ありがとう。もう…さようならなんて言わないよ。安心して…ありがとう。大好き。これからもよろしくね。いろいろな感情が湧き上がってきた。もう…離れたくない。大好きなこの子から…離れたくない。


「甘えん坊だなぁ…じゃあ、私も春香ちゃんと2人きりで寝る時はずっとこうしてるから」


甘えん坊なのはきっと私の方だ。そんな私を春香ちゃんは受け入れてくれた。ありがとう。何度その言葉を口にしても足りない…だから、私は行動で示した。春香ちゃんを強く抱きしめて、もう離れない。離れようとしない。と春香ちゃんにアピールをした。すると春香ちゃんは嬉しそうな表情でありがとう。と小さく呟いた。こちらこそありがとう。という言葉は喉元で飲み込んだ。言い出したらキリがないから…ありがとう。と思うだけで春香ちゃんに私の想いはちゃんと伝わるような気がしたから…だから、言葉はいらない。想いさえあればいい。強い想いだけ…あれば…いい。ありがとう。本当にありがとう。これからもずっと仲良くしてください。これからもずっと…一緒にいて…ください……春香ちゃんのこと……大好きだよ。



そう心の中で春香ちゃんに伝えると春香ちゃんは嬉しそうに微笑んでくれた気がした。春香ちゃんに想いを伝えてから数分後には私も春香ちゃんも目を閉じてゆっくり眠っていた。私も春香ちゃんも抱きしめていた腕を離すことなく。眠った。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る