第106話 バイト初日





「えへへ…なんかりょうちゃんと一緒にバイトのシフト入るとかちょっと緊張するな……」

「新人でわからないことだらけなのでいろいろと勉強させていただきますね。先輩」

「もう…揶揄わないでよぅ……」

「ごめんごめん。でも、バイトの時間はちゃんと敬語使わせて」

「うん。わかってるよ」


まゆ先輩の車に乗ってバイト先に向かいながらそんなやり取りをした。やはり、バイトの時間はバイトの先輩であるまゆ先輩にきちんとした言葉遣いをしたい。まゆ先輩はあっさりと納得してくれた。


「ふぅ…めっちゃ緊張する……」

「いやいや、まゆが緊張しないでよ。僕なんかまゆの数倍は緊張してるからね」


バイト先の駐車場に車を停めて関係者用の通路を歩きながらまゆ先輩が緊張していたので僕も緊張していることを伝える。やはり彼氏…を職場に紹介することは緊張するのだろうか…


「お疲れ様です。今日からの新人の子を連れてきたので少し裏の案内させていただきます」

「お、りょうくん。まゆちゃん。お疲れ様。りょうくん、今日から正式によろしくお願いします。まゆちゃんを教育係にしておいたからまゆちゃんにいろいろ教えてもらってね。わからないことあればまゆちゃんだけじゃなくて他のスタッフに聞いてくれればいいからさ、まあ、今日は私と私の妻とまゆちゃんとりょうくんしかシフト入ってないんだけどね」

「はい。よろしくお願いします」


本屋さんに入り本屋さんの裏に入ると店長さんが出迎えてくれたので僕は店長さんに挨拶を返した。僕とまゆ先輩がシフトに入るのは夕方6時から、平日は客足が減る時間帯なので、シフトは大体4人くらいのようだ。


「じゃあ、りょうちゃん、さっそくいろいろ説明するから覚えてね」

「はい」

「じゃあ、私は表で仕事してくるのであとよろしくね。後で妻にりょうくんの紹介をしてあげてほしいな。まゆちゃんの彼氏がどんな子か気になってたから」

「揶揄わないでください……」

「ごめんごめん。じゃあ、よろしくお願いします」


店長さんはそう言って扉を開けて表に出て行った。店長さんが出て行った後、まゆ先輩はもうっ。っと頬を膨らませて不満そうな表情をしていた。かわいい……


「じゃあ、はい。りょうちゃんはこのロッカー使ってね。わざわざまゆの隣を空けてくれたから…中にりょうちゃんのエプロン入れておいたから着けてね」

「はい」


わざわざまゆ先輩の隣のロッカーを空けてくれたって……もしかして、僕とまゆ先輩が付き合っていること職場の全員が知ってるパターン?え、何それ…めっちゃ恥ずかしいんだけど……と思いながら僕はロッカーを開けて荷物をしまい、中に入っていたエプロンを着けてまゆ先輩から名字が書かれたプレートを受け取りエプロンに付けた。エプロンのポケットにメモ帳とペンを入れてまゆ先輩と一緒に表に出る。お客さんとして何回か店内を歩いたことがあったが、店員として歩くとなるとなんか少し緊張する。


「文恵さん、レジ空いているみたいなので今のうちに紹介させてもらいますね。今日からバイトに入ってくれるりょうちゃんです」

「あー、まゆちゃんの彼氏さんね。よろしくね。ちょっと今はあまりお話できないから店締め作業の時にお話しましょう。まゆちゃんとのこととか聞きたいから、仕事でわからないこととかあれば聞いてね」


と、文恵さんが言うと、ちょうどレジにお客さんが来たので話は中断される。文恵さんによろしくお願いします。とだけ言い、僕はまゆ先輩に連れられて店内を歩き回り、本棚の配列等の説明をしてもらった。その後、品出しや、在庫管理、店内清掃等の説明をしてもらい、次にお客様の対応、本の在庫探しや本の取り寄せなどのパソコン作業を教えてもらい、文恵さんと交代してまゆ先輩と並んでレジに立つ。レジに立ち、お会計などの説明をしてもらいお客様が来るまでブックカバーを折ったりしていた。お客様が来て、最初はまゆ先輩が対応するのを見学し、次は実際に僕がやってみる。当然、横にまゆ先輩がいていろいろサポートしてくれたので一人目のお客様を無事対応することができた。


「りょうちゃん、ちゃんとできたじゃん。すごいよ」

「そうだね。まゆちゃんなんか緊張して最初レジから小銭吹き飛ばしたもんね」

「ちょ…店長……恥ずかしいからあまり言わないでください…」


店長さんはごめんごめん。と謝りながらレジを出て裏の方へ向かっていった。まゆ先輩はもう。と恥ずかしそうな表情をする。レジから小銭を吹き飛ばすってどういうことなんだろう…と疑問に思った…後でまゆ先輩に聞いてみよう。


そんなこんなでいろいろとまゆ先輩に教えてもらっていたらあっという間に閉店時間の9時になってしまった。店内からお客様がいなくなったのを確認して、本屋さんに人が入れなくするように網のようなもので店のスペースの周辺を天井から塞いだ。その作業をまゆ先輩とした後にまゆ先輩に連れられて裏に向かう。裏では店長さんと店長さんの奥さんである文恵さんがお金を数えていた。


僕もまゆ先輩に教わりながらお金を数え始める。この金額が今日の売り上げと元々レジに入っていたお金の合計金額と一致しないと帰れないらしい……


結構な時間を使い、お金が一致してかなりホッとする。間違いは許されない作業なので作業中は必要最低限のこと以外話さない。その後、店内の清掃を行う。本来は、2人お金管理、2人店内清掃と分かれるようだが、今日は僕に仕事を教えるために片方ずつやってくださっているみたいだった。店内清掃の時間は店長さんや文恵さんとお話をしながら楽しく作業を行えた。まゆ先輩が過去にいろいろとやらかした話などを聞かせてもらえてかなり楽しかった。(まゆ先輩はめちゃくちゃ恥ずかしそうにしていたが…)

そんな感じでバイト初日はかなり楽しく終えることができた。まだまだ覚えることがいっぱいだが、すごくやりがいを感じる。


「ねえ、せっかくだしりょうくんの歓迎会やりたいんだけど2人共今から時間ある?よかったら一緒に食事しない?」


バイトが終わり本屋さんを出てショッピングセンターの通路を歩いていると文恵さんが提案してくださった。今日はこのまま、まゆ先輩の家でお泊まりする予定で夜ご飯もまだ準備していなかったので、僕とまゆ先輩は店長さんたちと一緒に食事をすることになった。





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