第78話 3人のリング





「うわぁ…すごい人だね…逸れないように気をつけないとね。りょうちゃん」


まゆ先輩はそう言いながら僕と腕を組む。まゆ先輩の言う通り、すぐに逸れてしまいそうなほど、繁華街は人で賑わっていた。まゆ先輩と僕が腕を組むのを見て春香もまゆ先輩と反対側で僕と腕を組んだ。何この状況…こんなにたくさん人がいるのに恥ずかしい…と僕が思っていると春香とまゆ先輩の顔が真っ赤になっていることに気づく。どうやら春香とまゆ先輩も恥ずかしいと思っているみたいだった。


とりあえずいろいろなお店を見て回ろうということになり午前中は服屋さんを中心に回った。春香やまゆ先輩が、いろいろな服を試着してくれて、普段あまり見られないような春香とまゆ先輩を見られて午前中は大満足だ。


服屋さん回りに熱中しすぎて、昼ごはんを食べるのを忘れていた僕たちは14時過ぎに昼ごはんを食べることにした。有名なオムライスのお店で、ふわとろチーズオムライスを僕たちは注文し、デミグラスソースがたっぷりかけられているチーズオムライスを堪能した。チーズオムライスを食べ終えた後、今日のメインであるアクセサリー探しをすることにしたが、その前に一旦まゆ先輩の車に戻って春香とまゆ先輩が購入した洋服を車に置いていく。


「アクセサリー、どんなのにする?」

「うーん。3人でお揃いのイヤリングとかは?」

「え、でもりょうちゃんってイヤリングとか付けないよね」


僕の質問にまゆ先輩が答えてくれて、春香がまゆ先輩の提案に意見してくれた。たしかに僕はイヤリングを持っていないし、あまりイヤリングが好きではない。昔、試しに春香のイヤリングを借りたことがあったが、たまに耳が痛くなるし、楽器を吹くと、揺れて邪魔になるのでいらない。という判断になったのだ。


「無難に3人でお揃いのリングとかでいいんじゃないかな?」

「まあ、それが一番かな…」


春香の提案に僕が賛成する。まゆ先輩も納得したように頷いてくれた。そんなやり取りをしていたらアクセサリーショップに到着したので、中に入ってめぼしいものがないかを探すが、やはりあるものはペアリングばかりで3人で着けることを意識したものはなかった。仕方がないので、同じリングを3つ買うことにする。


「りょうちゃん、せっかくだからりょうちゃんが選んでよ」


まゆ先輩が僕に言うと春香もまゆ先輩の意見に賛成する。悩む…と思ったが迷わなかった。僕はお店に入ってからいろいろ見た中で最も印象に残っていたリングを手に取る。


「これなんかどう?」

「え…いいね。これ」

「うん!まゆ、めっちゃ気に入った」


春香とまゆ先輩は喜んでくれた様子なので僕は安心した。


「りょうちゃん、悩むと思ったけど即答だったね」

「うん。さっき見た時にさ、春香とまゆ先輩に似合いそうだなって思ったからさ、あと、普通に男でも付けれそうなデザインだったから」


僕が春香に理由を述べると春香は顔を真っ赤にする。僕と春香の会話を聞いていたまゆ先輩の顔も赤い…


「嬉しいこと言ってくれるね。ありがとう。大好き…」

「まゆも、理由聞いてめっちゃ嬉しい。りょうちゃん、ありがとう」


春香とまゆ先輩は僕にありがとうと言い僕に思いっきり抱きついた。一応、店内だからほどほどにね…いや、ほんと、周りの目線がすごいから……


その後、同じデザインのリングで大きさを試した。運良く、僕も春香もまゆ先輩も左手の薬指につけられるサイズが見つかったので、3つのリングをお会計してもらう。


中々いいお値段だが、ここのお会計は僕が出した。高校3年生の時に僕がコツコツ貯めていたお金だ。使い道はここしかないだろう…春香とまゆ先輩もお金を出すと言ってくれるが、これだけは譲れなかった。


リングが入った袋を受け取り、僕たちはお店を出る。もう16時を過ぎていたのでそろそろ帰ろう。とまゆ先輩の車に戻る。


「ねえ、1つだけまゆのわがまま聞いてくれないかな?」


まゆ先輩が運転を始めて少しすると僕と春香に言った。まゆ先輩や、春香のわがままなら出来ることならなんでもすると決めていたので僕はまゆ先輩に言ってみて。と言った。まゆ先輩は少し照れくさそうにまゆ先輩のわがままを…まゆ先輩の願いを口にした。


「りょうちゃんは覚えてくれてるかな…まゆ、好きな人と…大好きな人と…お互いに愛し合っている人と…海沿いを歩いたりロマンチックなことしたいって言ったよね。だからさ、今からまゆが、大好きなりょうちゃんと春香ちゃんと海に行きたい。海で、夕焼けを眺めながらさ、りょうちゃんにまゆと春香ちゃんの指に今日買ってくれた指輪をはめて欲しい」


まゆ先輩は夢を口にするように、ゆっくりと、キラキラした声で想いを口にした。


「それ、すごくいいね。3人の思い出になりそうだし、賛成、春香は?」

「うん。素敵だと思う」


春香の同意も得られたので僕たちは急遽海に向かった。海に向かうまゆ先輩の表情はそわそわした感じですごく幸せそうだった。






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