第25話 唇の温もり
「ねえ、りょうちゃん、今日は一緒に寝てもいい?」
僕にもたれかかっている春香が甘えるような声で僕に言う。そう言われて断れるはずもなく僕はいいよ。と答える。すると春香は嬉しそうに微笑んだ。
その後しばらく春香は僕の横から動かなかった。ずっと甘えるように僕の腕にもたれかかってくる。僕が頭を軽く撫でてあげると満足そうにもっと撫でてと言ってきた。
これで最後だよ。と言いながら優しく春香の頭を撫でる。春香は今日一番の笑顔でそれに応えてくれた。本当にかわいい。
「はい。終わり、じゃあ、歯を磨いて寝よう」
「そうだね」
春香は少し顔を赤くしながら答えた。僕と春香は立ち上がり洗面台で歯を磨く。歯を磨き終わった後、僕と春香は僕の部屋に行く。春香は迷わず僕のベッドで横になった。僕は少しドキドキしながら春香の横で横になる。春香と一緒に寝ることは何回かあったが、同じ布団に入る瞬間のドキドキは何度やっても慣れない…
僕が、僕と春香の体に布団をかけたら春香は迷わず僕の腕に抱きついてきた。そして僕の方に顔を向ける。
「りょうちゃん、おやすみ」
天使のような笑顔付きのおやすみは今日一日の疲れを全て吹き飛ばすようだった。
「うん。おやすみ」
僕も笑顔で春香に答える。僕の言葉を聞いた春香は目を閉じる。僕も目を閉じて眠ろうとするが、好きな人に抱きつかれている状態のせいで寝ることに集中できない。その…胸とかが当たってるのが本当に気になってしまうのだ……
「りょうちゃん、ドキドキしてる?」
僕の腕を抱きしめている春香が僕に尋ねる。春香に抱きしめられて僕の心臓はずっとドクンドクンと凄い勢いで揺れ動いていた。
「うん。まあ、そりゃ…春香かわいいし、意識しちゃうよ…」
「そっか…私もね。今凄くドキドキしてるんだよ」
春香は顔を僕の顔に近づけて言う。僕が顔を動かしたらすぐにぶつかってしまいそうな距離だ。春香の顔は赤く、とても魅力的だった。春香の口から流れ出る息が僕の頬に当たり、僕の心臓の鼓動は更に早くなる。大好きな人に抱きつかれていてこんな魅力的な顔で見つめられて、この状況にドキドキしていると言われ、もう、まともではいられなかった。
そんな状態の僕を見て春香は僕の腕を抱きしめていた片方の腕を伸ばして僕の頭に掌をそっと乗せる。そして少しだけ力を入れて僕の顔を横に向けた。
春香の顔と向かい合った。すごく可愛らしい顔が目の前にあった。ずっとずっと好きだった人がこんなに間近にいた。春香の呼吸音が荒くなっているのが感じられた。春香が息を吐くたびに僕の髪が微かに揺れる。それは春香も同じで僕が息を吐くたびに春香の髪は揺れていた。
春香は更に顔を近づけた。
「ねえ、りょうちゃんは私のことどう思う?幼馴染みとしてじゃなくて一人の女の子として…」
春香は真剣な表情で僕に尋ねた。少し震える声でいつもより曖昧な発音で……
「かわいいと思うよ。それに優しくて家庭的ですごく理想的な女性だと思う。それと、一緒にいてすごく落ち着くかな」
「そっか、そう言ってもらえて嬉しい」
春香は今日一番の笑顔で僕の言葉を受け止めた。
「りょうちゃん、今、ドキドキしてるんだよね…だったらもっとドキドキすることする?」
春香が体を僕の体にピタッと引っ付けて言う。僕の心臓の鼓動は更に激しさを増した。
「ドキドキすることって?」
「その…男の子が好きそうなことですごく気持ちいいこと…」
春香の言葉を聞いて僕はおかしいと思った。春香が急にこんなことを言うわけがない。と…
今日、起こった出来事を思い返す。僕が帰ったら春香は泣いていたことから今日、何か起こったことは推測される。
そのあと、ずっと僕の側にいたことからは一人になりたくなかったということが推測された。そして、何があったのか話そうとしないことや、先程の女の子としてどう思うかと言う質問などから推測される答え、春香は今日失恋したのではないかという仮定が僕の中で生まれた。
そして、この状況、春香は失恋して少し自暴自棄になっているのではないかと思う。
「春香、そういうことは春香が本当に好きな人としないとダメだよ。春香は可愛くて魅力的なんだから気安くそんなこと言っちゃダメだよ」
僕の答えを聞くと春香はえ?と言うような表情をした。そして少し経って何かを察したような表情をする。
「りょうちゃんのバカ…好きでもない人にそんなこと言うわけないじゃん…もうしらない。寝る」
春香は拗ねた時に浮かべる表情をして僕にそういう。そして僕の唇と自分の唇をくっつけた。柔らかい春香の唇が僕に当たる。数秒…春香の唇の温かさが僕の唇に伝わってくる。そして、唇を離した後、春香はおやすみ。と言い最初のように僕の腕に抱きついて眠る体制になる。
僕が春香に話しかけても春香は応えてくれなかった。謎が深まる。春香が最後に言った一言…そして、春香の今日の行動…
そして…春香は僕のことが好きなのかもしれないという僕にとって最大の謎ができたのだった。
ずっと残り続ける春香の唇の温もりはまるでその謎を肯定するかのようにずっと残り続けるのだった。
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