第35話

《拓人視点》


 その後二人で寝る場所や、琴音が着る服装を決めてからリビングへ向かう。

 空も暗くなり、もう十九時だ。


「んー、良い匂い…また結衣ちゃんの手作りかしら?」


 確か昼は結衣に作らせたけど、今回ばかりは違う。


「いやこれ母さんだ…結衣はまだここまで出来ねえから」


 すると琴音が固まり、急に髪型などを気にし出した。


「琴音?急にどうしたの?」


「ど、どうしたって…あ、あなた…か、彼氏の母親に逢うのよ?!少しでも良いように見られたいじゃない!」


 そういうものなのか?俺はそのままでも良いと思うんだけど、琴音がそういうのならそうなんだろう。

 改めて琴音をじっくりと見る。

 綺麗な黒髪、モデル顔負けの顔、それでいて控えめに見えて実は大きい胸、女の子にしては長い綺麗な手足。


「な、何よ…ジロジロと」


「わ、悪い…綺麗だなって」


 こんなに綺麗な女の子が俺の彼女なのか、と改めて思い知った。


「そ、そう…ありがと」


 最後の方は小さくて上手く聞き取れなかった。




 ☆




 リビング前まで来て、まずは俺から先に入る。


「あら、珍しいわね自分から来るなんて」


「良い時間だから、あとおかえり母さん」


 良かった、父さんは居なくて…


「ただいま、お土産は後であげるからご飯にしましょ」


「その前に母さん、逢って欲しい人が居るんだ…」


 それと同時に琴音が入ってきた。


「は、初めまして…上野琴音と言います。拓人のか、かの…じょです…」


 慣れない挨拶で林檎のように赤くなった琴音の顔、少し緊張しているのが伝わった。


「あらら、丁寧にどうも、うふふ拓人なかなかやるじゃん?」


「お、おう…」


 俺は琴音の左手を握り、恥ずかしさを誤魔化す。

 母さんの質問が始まった。


「いつから二人は付き合ったの?」


「三日前です…」


「キスは?」


 キスの質問をされお互い更に顔を赤くする。

 お互い握っている手に力が入る、そんな反応を見た母さんは全て悟った。


「最近の子って意外と早いのね、迷惑掛けると思うけど、これからもよろしくね?」


「母さん!」


「は、はい!…ふふっ」




 その後も琴音と母さんは意気投合し、連絡先まで交換していた。

 そんな俺の傍にずっと居るのが、ずっと甘えたくてしょうがない妹の結衣。


「お兄ちゃん、淋しい?」


「いや、全然?」


 すると結衣はリスのように頬を膨らませて、顔を逸らしていた。


「ちょっとぐらい妹に構ってもいいじゃん…」


「…そろそろお前も兄離れしろ、好きな奴とか居ねえのか?」


「居るわけないでしょ?まだ始まって1ヶ月ちょっとなんだし…」


 それもそうだが、やっぱり俺としてはそういう人を早く見つけて欲しいんだよな…


「それにお兄ちゃんさえ居ればそれでいいもん」


「結衣はまたそうやって…」


 俺達の会話が気になって、母さんが割り込んできた。

 そしていつものように始まる親子喧嘩、俺は巻き込まれたくないのでリビングを後にする。


「部屋に戻るの?」


 御手洗いから出てくる琴音、通りで居なかったわけだ。

 俺は後ろを見ろとアイコンタクトを送り、琴音も少し苦笑いしていた。


「いつもこうなの?」


「今日はたまたま、普段は仲良いよ」


 俺はそう言い残し、自分の部屋に戻ろうとしたら琴音に呼び止められた。


「彼女をほったらかしにする気なの?」


「…ん」


 俺は左手を差し出すと琴音は右手で受けそのまま腕に絡み付く。


「歩きづらい…」


「ちょっとぐらい我慢しなさい」


 俺達は駄弁りながら、部屋に戻った。

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