第34話
《琴音視点》
「連休が終わるまで泊まっても良いって…」
変に意識しすぎてるせいで、また私は拓人の顔を直視できなくなっていた。
それに着替えとか持ってきていないし、泊まる部屋とかもまだ決まってない。
「…さ、流石に迷惑でしょ?拓人だって一人で居たい時だってあるじゃない?わ、私――」
「ううん、迷惑なんかじゃない」
「ちょっと拓人?な、何言って…あっ」
私は初めて拓人から抱き締められ、更に顔が熱くなった気がした。
よく見ると拓人も私同様に真っ赤だった。
「一人の時間なんていくらでも作れる、でも琴音との時間はこういう時じゃないと作れないからさ…」
「拓人…」
「俺、もっと琴音の事知りたい、もっともっと好きだって思いたい…」
彼氏にこんなこと言われて嬉しくない訳無いじゃない…
「もう…拓人ったら、えへへ」
もうとにかく嬉しすぎてにやけが止まらないです。
☆
その後は拓人と一緒に静かに読書をしていたら、気付けば空の色が茜色になっていた。
「あら、もうこんな時間」
「ん、そうだな」
それでも拓人は小説に釘付け、自分の世界に入り込んでいるのだろうか?
遠くでいつも見ていた拓人の集中した顔を今は独り占め。
顔はそれほど良いって訳じゃないけど、なぜ他の女子が彼に夢中になるのかが少し分かった気がした。
「…琴音、何か付いてる?」
「何も付いてないわ」
何かに集中している拓人は、まるで別人のようで、でも少し可愛くて、だけど格好良い。
「ふふっ…」
私は借りていた小説を閉じ、彼の隣に腰掛けて拓人の左肩に頭を乗せてみた。
「琴音?」
私は少し意地悪をしてみた。
「その小説に出てくる女の子と私、どっちが好み?」
「え、そりゃ琴音だけど…」
「どうして?」
拓人の頬が少しずつ赤くなり、心臓の鼓動が聴こえた。
「…分かんない、分かんないけど、きっと琴音と一緒なら俺自身が変われるような気がして…」
「…そう」
「逆にそっちはどうなんだ?主人公と俺、どっちがタイプ?」
答えはもうずっと前から、いや初めて逢った時から決まってる。
「拓人に決まってるでしょ?もう…」
「それはどうしてだ?」
「一目惚れ…かな、憶えてる?初めて逢った時の事」
流石に小さかったからはっきりとは憶えてないけど、拓人と出逢った時のことはしっかりと憶えていた。
「…ごめん、全く」
私は彼の過去の事を思い出し、ある程度は仕方ないかと割り切っていた。
「お父さんと一緒だったの、二人とも」
私は目を瞑って、昔話を始めた。
☆
私はパパに連れられて、近くの公園に来ていた。
その頃の私は人見知りが激しく、ずっとパパの後ろに隠れてた。
「ん?久し振りだな!元気だったか?」
「おう、そっちも相変わらず元気そうで何より」
二人は学生時代からの付き合いだったらしく、凄く仲が良かった。
「おや?娘さんか?おーい、拓人こっちに来なさい」
「なぁに?おとうさん」
私はまだパパの後ろに隠れていて、離すまいとぎゅっと抱き着いていた。
「ごめんな、拓人くん、ほら琴音」
パパに簡単に引き剥がされ、拓人の前に出される。
「うぅ…ことね、です…」
「ことねちゃん、っていうんだ、かわいいなまえだね!」
初めて家族以外の人に可愛いと言われて、初めてパパ以外の男の子と話したせいか、気付けば私は自分から名前を聞いていた。
「たくと!しばさきたくと!よろしくね!」
その時の拓人の笑顔が眩しくて、胸がきゅーっとなり、好きという気持ちを初めて持った。
☆
「私はあの時からずっと、好き…だから」
自然と力が入る、好きだからこそこの手を、この腕を離したくない。
「ずっと一緒に居て…欲しいの」
「琴音…俺は何処にもいかない、ずっとは無理だけどなるべく傍に居る、それでも良い?」
「約束よ?破ったりしたら赦さないんだから…」
お互い顔を見合わせて、お互い笑い合った。
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