<エピローグ>
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創造主の意識は今、厄と共に燃えてなくなった。
残すはこの世界の癌と成り果てた花園愛留守と浮楽園愛蘭。そして、【L】を生み出し続けるこの空間のみだ。最後の葬儀、と言ったところか。
「……貴方も早く行ってください」
黒い炎の中。浮楽園愛蘭の体を抱き寄せたまま、愛留守は植物人間にも告げる。
もう、これ以上任せる仕事はない。全て終わった事である。
ミッションコンプリート。後は協力してくれた仲間全員が逃げてくれればそれで終わりだ。
「おいおい、冗談じゃないな」
しかし、彼女からの撤退命令を彼は無視するではないか。
「約束の報酬金。払わずにトンズラかよ」
「……ふふっ、そういえば、忘れてました」
報酬金。約束の金。彼はそのためにこの島にやってきて、仕事をした。
彼の目的の一つがこうして文字通り闇に葬られようとしている。あれだけ精いっぱい仕事したのに、それに対してノーギャラという事実には理不尽を感じたようだ。
「どうするんだよ。払わないのか? じゃなければ、地獄の底までお前を追い回すぜ?」
「……それは、困りますね」
幼馴染と共に、あの世で静かに暮らす。
そんなところに未来永劫借金取りとして横槍を入れられ続ける。鬱陶しいうえに面倒極まりない脅し。愛留守は微かに困った表情を浮かべていた。
「……では、こうしましょう」
もうじき、愛留守と愛蘭も塵となる。
「最後の仕事を、貴方に頼みます」
姿形が消えてなくなってしまう前に、愛留守は即興の口約束をする。
「生きてください。おじいちゃんになるまで、精いっぱい生きてください」
ここから生きて帰る。そして、その後も生き続ける。
「その仕事が出来たら出来たほど……凄い報酬を、あの世で用意しておきますね」
冗談なのか、それとも本気なのか。
愛留守の表情は、いつも通りの健気な笑顔だった。
「やれやれ、随分な出世払いと来たもんだ」
随分と底の見えない仕事を叩きつけられたものである。
「生きる事にもウンザリした俺に、生きろ、だなんてさ」
「……威扇さん」
植物人間の本当の名前は知らない。
だが、彼女にとってはそれが植物人間の名前。信頼できた大切な仲間の名前だ。
「確かに生きる事は苦しい事ばかりかもしれません。でも」
黒い炎の中、愛留守は苦悶一切浮かべない表情で、言い放った。
「生きていれば、良い事もありますよ___」
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新年を迎えてすぐの夜は冷える。
海の上となれば当然、か。波の水飛沫がより体を凍えさせる。
一台のボートは、境界線に向かって進んでいく。
何処に向かっているのかも分からない。ただ、日本とは違う国へと向かっているボートの甲板で、一人の青年は槍を片手に寝転がっている。
「生きれるだけ生きろ。そうすれば、あの世で報酬をくれてやる、か……はっ、馬鹿みたいな口約束をしたもんだ。口で言うのは簡単だよ、ホント」
改めて、彼は馬鹿な事をしたものだと思っている。
結局タダ働きになったことに変わりはない。世界の変革にすら手を貸したのに、それに対しての報酬なんて一切手元に来なかったのだから。
「……生きていれば、良いことはある、か」
今日は真冬。外には出たくない。
でも、少し風邪をひいてもいいと思えるくらいに、満面の星空だ。
「今日は白夜か……ハハッ、眩しいな」
一台のボートは海の彼方へと進んでいく。
太陽も何もない暗黒の世界。全ての闇を照らす、真っ白な閃光へと向かって。
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___ねぇ、貴方の名前は、何ていうの?
___ふーん……私の名前はね。
___えへへ、ねぇ? 良かったら一緒に遊ばない?
___年上なんだ。
___まるで……お兄ちゃん、みたいだね。
___お兄ちゃん。
___また遊ぼうね。
___きっと明日も、良い日になるはずだから。
エネミー・エル =業= 完
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