26話「GIGA BREAK ~脱出セヨ~ 」
「たのもーーーッ!」
プラグマは、かたっぱしから、館内の扉を力強く蹴り上げる。窓ガラスを叩き割って侵入した彼女は、瑠果達がいるであろう牢獄を探し回っていた。
しかし、次にプラグマが入った先は倉庫。何かあるわけでもないハズレの部屋。
「ああ、もう! またハズレ!?」
プラグマは姉の指示通り、合流を目指す。
瑠果達の会話は聞こえるが、部屋の位置まで特定できるわけではない。どうにも、耳障りな悲鳴こそ、呪術の道具ごしに聞こえてこそしたが、それが騒音となって仕方ない。
「んーと、次は……」
とはいえ、面倒がってる場合じゃない。
手遅れになってしまいアルス達が殺されてしまえば、折角のボーナスもかなり減額されてしまう。プラグマは空気を入れ替え、次の部屋の扉を開く。
「またハズレ……ん? おやおや~?」
またもハズレ。殺風景な石造りの部屋へと入ってしまったと思った。
___だが、どうだろうか。
そこはワインの樽が並べられた倉庫。その奥を眺めてみると……何やらシェルターを発見する。
このような場所。ワインもビンテージのものばかり。
そんな倉庫の奥にあるこのシェルターの中、おそらく“宝”が眠っている可能性があるのでは。
「ちょ、ちょっとだけ。ちょっとだけだから、ね」
お宝があるのなら、ちょっとだけ貰っていこう。
そんなヤマしい事を考えながら、プラグマは持っていた警棒をそっとシェルターに当てる。
電流を発砲。シェルターに仕掛けられていたロックは強引に破壊する。
「はい、ドーン!」
シェルターを豪快に開き、待っているであろう高級なお宝を前にプラグマは胸を躍らせた。
「……一体何があるのやら~♪」
開けてすぐには何もなかった。待っていたのは最低限の明かりで照らされた梯子。この下の方に、宝が隠されている可能性がある。
ワクワクしながらもプラグマは梯子を下りていく。ハッキリいって時間の無駄。手遅れになる前に仕事を進めなければならないという仕事への責任も、気が付けば目の前の金欲で葬り去られてしまっていた。
「ぬっふっふー、って、おや?」
地下室へ到着。
……何か、お宝が隠されている様子はない。
「ああ、うん。ガッカリはしたけれど」
プラグマに待っていたのは……冷たい牢獄の部屋。。
「ビンゴ~♪ おおあたりぃ~♪」
その中で眠っている。
もう一人の“反逆者”の姿であった。
「……なんだ、意外な奴が来たな」
てっきり、飯の時間だと思って目を覚ました威扇はガッカリとした表情だった。
「仕返し。アレだけじゃ気が済まないから、続きをやりに来たか?」
「ぶー、やっぱ助けるのやめよっかな」
こんな時にまで無駄口を叩く。相も変わらず腹の立つ表情。
とはいえ、プラグマ本人も何度かこの人物と対面しているために分かっている。この人物は命乞いをするはずがない。ここから出せと意地になることも。どんな状況下でも、立場を弁えずに毒を吐き出す。
何処までも他人を舐め腐っている。いつ殺されてもおかしくない状況であっても、それは変わらないのだ。
「……でも、“こいつも助けておけ”とは指示されてるから、無視したらボーナス減っちゃうだろうし……うーん、だけど、コイツ解放しちゃったりでもしたら、後の仕事が面倒になるし……うーん」
プラグマは牢獄の前で頭をひねっている。
依頼人からの指示では、反逆者である四人すべての身柄を荒森羅から解放する。というのが条件である。
だが、この男まで解放すれば、後の仕事が大変になるのではないだろうか?
ここを見て見ぬフリするのが正解の気もする。多少、得られるボーナスが減額しようとも。
「……まぁいいや。助けよ」
十秒後、頬を叩いてプラグマは牢の前へ。
「依頼人はともかく、お姉ちゃんに怒られるのはちょっとね」
“嘘を通せる相手じゃない”。
一番愛している姉だけには見放されたくない彼女は、その理由だけで植物人間の解放を選ぶ。
「牢獄の手前にカギを置いておくことはないわよねぇ。たぶん、シンラ様ってやつか、あのシスターのどっちかが持ってると思うけど……戻る時間がない」
となればどうするか。やはり見放す以外に方法はないか。
「……そういう時は、これ!」
だが、プラグマはその場から離れない。再び警棒を取り出した。
「ふっふっふ、コイツにはこんな使い方もあるってね」
牢獄は電子機器によるロックがかけられているわけではない。古来より残された牢獄とだけあって、凄くレトロな鉄製のカギを使った鍵穴だ。
……スイッチを入れる。
途端、警棒は“赤く腫れあがる”。
「これで、よしっと」
“はんだごて”。即ち、溶接棒だ。
数千度以上の温度が表面に現れ、鉄製のカギ穴を溶かしていく。
そう、プラグマが持っている警棒は、以前使っていた“電撃を放つ警棒”とは別の物である。
「おじゃましまーす」
鍵を外し終えたプラグマは殺し屋の元へ。
「はい、動かないでよー。動いた瞬間、助けるの辞めるから」
釘を刺し、大人しくしている威扇を睨みながら、枷としてつけられた手錠の鎖も溶接棒によって溶かしていく。
数千度以上の温度が近づいていることもあって、腕には軽いやけどを負いかける。だが、脱出の為ならばやむを得ない。多少の火傷程度は受け流す。
「礼はしておくか……ありがとよ」
救助完了。自由を得た威扇は静かに立ち上がる。
「んっ……やっと自由になった」
手首につけられている“封印の腕輪”だけは残念ながら溶接棒では溶かせなかった。【L】も使えない状態の生腕にソレを近づけたとなれば、腕も一緒に溶け落ちること間違いなし。
封印の腕輪のカギは別で探さなくてはならない。
「武器はどこかで適当に拾うわよ。それまで丸腰ね」
「上はどうなってる?」
「アンタのお仲間さんがピンチってところ。んで、私達は約束と違うことをしてる馬鹿野郎を始末しに行くところ」
「……なるほどな」
ひとまず、状況は理解した。
この牢獄には当然武器なんてあるはずもない。館の何処かで適当に武器を見繕う事にする。
「それじゃ、いくわよ」
「あっと、その前に……」
牢獄を出る前、焼き溶けた鎖が引っ付いたままの手錠をつけた威扇が足を止める。
「ん、どうしたの、」
振り返り際。
「そぉらっ……!!」
威扇は___
呑気に待ち構えていたプラグマの腹に“蹴り”を一発。
「ぐっっふっ……!?」
プラグマの体は軽く飛ばされ、後ろの磔の壁へと叩きつけられる。
「あの時の仕返しを一回だけ。それともう一つ……コイツもっと」
焼き溶けた鎖。中途半端な形になった鎖の先端は“針”のように鋭くなっている。
「―――ッァ!?」
それを“足に一刺し”。
リムジンで威扇が負傷した場所と全く同じ部分。プラグマにも味わってもらうこととする。熱と苦痛が同時に、プラグマの細い脚を貫いた。
「ふぅ、満足した。じゃあ、行くぞ」
「……アンタ、状況分かってないでしょ……【L】を使えないアンタなんて、その気になれば、ぶっ殺せるんだから、ねっ……!!」
「俺の身柄を確保するのが条件なんだろ? 殺せるものかよ」
地を這いつくばっているプラグマを、威扇は笑う。
「……それに“喜んでいる”なら別にいいじゃねぇか」
【L】も持たない以上、力と体の頑丈ぶりの差故に、大した傷などつけられない。撃ち込まれた蹴りも棒で叩かれた程度。刺された鎖も、注射針を打ち込まれたくらいの感覚だ。
とんだ被虐体質のプラグマにとっては___。
「アハハッっ……!」
それくらいの攻撃、快楽以外何物でもない。
プラグマは痛みに悶えながら、頬を赤く染めて威扇を見上げていた。
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