第17話 戦いの報酬
皆さんは一週間の中で一番好きな日は何曜日でしょうか?
昔は月月火水木金金でしたが、今は違います。土曜日と日曜日という素敵曜日があるのです。大人の中には休日返上で働いている勤労意欲満載の努力家さん達もいますが、学生にはそんなの関係ありません。進学校の中には土曜日も半日あったり、部活で学校に行く人もいますが、その人たちは例外なので気にしないでおきましょう。
閑話休題
さて、一番好きな曜日でしたね。勿論休日が一番好き、という人が大半だと思います。休日は予定が無いゆえに何をしてもいいし、何もしなくてもいい。自由のある一日が送れますから最高の一日になるでしょう。だから土日が一番好き、という考えもわかります。
しかし、よく考えていただきたい。土曜日は明日が休みだからとだらだらすることが多いですし、日曜日は明日が月曜日だということもあって憂鬱になります。月曜日の夕方を思い出してみてほしい。ね?世界が滅びればいいと毎週思っているでしょ?そういう事なんです。
つまり、人は常に未来を考えます。今日よりも明日なんです。明日を考えて行動するから人は前を向いていけるんです。よって、一週間の内に一番いい日はいつかと言われたら金曜日以外ありえません。
「ヒカリ、さっきから何を言っているのです?」
「いや、学校行きたくないなーと思って」
長々と高説をたれていたのは、とどのつまりそういうことである。今日は金曜日。昨日は結局巫女ゾーン(?)の一室で二十人ばっかしと寝た挙句、何も起きないという、いいのか悪いのか判断がつかないことがあった。それで、朝早くに起きた五条がヒカリを起こし、何事もなかったかのように男子ゾーンへと戻って、こうして食堂で朝食をいただいているのだ。
「巴。てめぇ昨日は巫女会に行ったんだろ?叔母さんがいんのによく行けたなぁ」
「そうですよ!! 兵衛さんは何で教えてくれなかったんですか!?」
食事スペースも男女で分かれているため、ここには男性の祓い人しかいない。厳粛な空気かと思えば意外とワイワイにぎやかに食事をしている人達ばかりだ。
「知らなかったのか?俺はそっちの方がびっくりだぜ。有名よ?巫女会に行ったが最後、綾子さんに説教されるっての」
僕ら最初から正座してましたよ。でもそうか。みんな通る道だったんだね。
「ヒカリ様は今日まででしょう?どうでしたか?祓い人のお寺は」
「うーん、一晩だけだから何とも言えないですねー」
「では今日も泊まれていかれては?明日は土曜ですしもっとゆっくり見て回られてもいいと思いますよ?」
兵衛さんの申し出はありがたい。できるならもっといろんな話を聞きたいのも山々だが、明日帰ると教会に連絡した手前約束は守らなければならない。
「ありがたいんですが、やめときます。うちの人が心配するんで」
「そうですか……ではいつでもいいのでまた来てください。今度はもっと盛大に歓迎しますんで!」
もっとかぁ……これ以上があるってどんな事があるのだろう。妖魔討伐見学ツアーとか?
「おっと、ヒカリ。もうそろそろ出ないと遅刻しますよ?」
「え? ああ、そうか。ここから学校までは少し距離あるしね」
「ええ。私は先に行って準備をしてますので」
そう言うと五条は食器もって台所へ向かっていく。なんだかんだで五条とはより仲良くなった気がする。もう親友みたいなもんだな。
親友?
何か引っかかる。親友って言葉に。なんだ?そんな引っかかることか?
「ヒカリ様も急がないと遅刻しますよ?」
「え?ああ、うん。あと様づけはやめてほしいかな……。年齢的には兵衛さんの方が上ですから」
「祓い人は基本的に階級制度ですので。年齢の上下関係は関係ありません。ですのでランク的には千堂ってだけでも隊長たちよりも上みたいなものですよ」
家柄だけでランクが最上級みたいなものなのだろうか?やりにくいね、自分の家系をよく知らないって。ではよく知っていそうな人にもっと聞いてみましょうか。
僕は残りのご飯を無言でかきこんだ。
「だから小雪センセー。教えてよ」
「誰が小雪先生よ」
昼休みの屋上。
もうそこが僕らの秘密基地のような感じになっている。何かあれば屋上。何もなくても屋上。そして、女の子と会うための屋上。ぐふふ。
「なにアホな顔をしてるんですか、ヒカリ」
「いや、何でもないよ。それよりもわからないことがあるから『小雪ゼミ』で聞こうと思って」
「何が小雪ゼミよ。バカなんですか?」
先輩に向かってバカとは。酷いなぁこの後輩は。でも千堂としては先輩になりそうだから僕たちの関係は複雑ともいえる。ややこしい。
「なんでもいいですから何なんです?聞きたいことって」
「それがさぁ……」
僕は昨日あった出来事をメロンパンをかじりながら地面に座って説明する。小雪さんは例の如く質素な弁当を食べながらそれを聞いていた。でもよく考えたら僕の方が質素だよな。
「祓い人のお寺にまで行ったの?ヒカリは行動力あるわね。でもなんかむず痒いでしょ?あそこやたら私達に敬語だし」
「ほんとだよ。僕なんか何もしてないのに感謝されるんだよ?わけわかんないさ」
ふふふと小雪さんは笑う。当然、巫女会に参加したことは伏せる。言ったら馬鹿にされるだろうし。
「鬼の件も災難だったでしょ?まぁそのクラスなら私でも余裕だろうけど」
「やっぱり小雪さんも強いんだね」
「そうね。でも千堂の中でも黒の色は最弱って言われてるの。理由はその特性が生産職向きだから。私の特性は『形状変化』って言ったじゃない?」
「うん」
「だから千武とか作るのにもってこいなのよ。何もないところから武器を瞬時に作れるわけだからね。難点は攻撃力が他の色より劣るところかな」
なるほど。足場とかも作れるし、無限に資材がそこらへんに転がっているようなもんだから何でもありなわけか。
「祓い人からしたら反則よね。刀一本作るのにめちゃくちゃ時間とお金と労力を使うのに私なら材料があれば一瞬だもの。やってらんないわよ」
刀身作るのだけでも大変らしいからねー、日本刀って。あれが一瞬で綺麗にできるわけでしょ?それはやけになるわ。
「千武の提供はね。その友好の証に送ってるのよ。実際は暇だからゴミを捨てる感覚でやってるだけなんだけどね」
千武の失敗作だったっけ。それでも凄かったけどな。あと言い方酷くない?
「私達は異形のバケモノを狩る。それはそいつらが持ってる資産を奪うためにしているの。それとは違い、祓い人は自主的に倒したり、依頼を受けてバケモノを倒す。実のところね、私達は仕事的にはライバル関係にあるの」
「じゃあなんで友好関係結んでいるの?」
「理由はいろいろあるわ。まず、祓い人は倒すことが目的であるからそのバケモノ資産を奪うって発想がないのよ。そもそも探す力がないしね」
なるほど、バケモノ退治の目的が違うのか。
「それにあっちは人を守っているでしょ?私達は慈善事業じゃないから人を守るって考え方が根本的にないの。目の前で人が襲われてても気が向かなきゃ助けないわ」
「それって酷くないかなぁ……」
「元々山賊だもの。家族以外は基本無視。そうね。世間一般の考えでは非道かもしれないわね、そういうとこは」
「倫理的にはおかしくない?」
「どこがよ。千堂以外の人ってなんだかんだ性格が歪んでいるように見えるわ。昨日の事もそうよ。立場の違いから間違いを正すことができない。周りの人は困っている人を見ているだけ。権力に支配された世の中って最悪ね。結局上の人達が甘い汁吸って喜んでるだけでしょ?バッカじゃない?」
確かにそうだ。倫理なんてこの社会では押し付けられた善意以外何ものでもない。正しくあろうとすればするほど自分が損をすることが多いのだからそういう意味ではおかしいのだろう。
「だからそんな人たちを私達が進んで助けることはないわ。私達はね、困っている人がいたら誰でも助けるわけじゃないの。困ってる人を助けたいと思ったら助ける。それだけの事なのよ」
達観してるなぁ…
「でも人がいないとバケモノも出てこない。人がいるからバケモノが出てくる。だから人を守る祓い人がいることで私達もバケモノを倒すことができるってわけ。共存関係ね。祓い人とは」
「ゲスいなぁ。でもそっか。それで友好的っちゃ友好的なのか」
「潰れてもらったら困るのよ。でも少しいなくなったところで別に千堂が滅ぶわけでもないから積極的には助けないわ。千武のゴミを捨てるくらいよ。祓い人との関係は」
…………まぁ祓い人もそれで喜んでるくらいだしいいのか?
「それで相談って結局何よ?」
「ああ、千堂の里。仁の里だっけ?そこに行ってみたいなって」
「そういう事ね。いいわよ、いつ行く?」
「そもそもどこにあんの?」
うーん、と小雪さんは少し悩むような仕草をする。
「他言無用よ?守れる?」
「話すなって言われたら話さないよ」
「じゃあいっか。一応秘密だから、里の事は。教えたところで誰も来れないし、襲われても返り討ちなんだけどね」
「だろうね」
「ここから私の足で三時間ってとこかな。案外近いわよ?」
意外とすぐ近くにあったようだ。でもこの人の足ってどのくらいの速さなのだろうか。
「車で行くの?それとも電車?」
「いいえ、歩きよ」
マジかよ……なんとなくそうかなーって思ってたけど。
小雪もヒカリももうすでに昼食を食べ終え、日光を浴びながらぐてーっと姿勢をだらけさせる。
「いつ行く?」
「明日行こうかな。何も予定ないし。なんか持っていくものとかないの?」
「ないわ。基本なんでもあるの。お金もいらないし、服とか食べ物もいらないわ。行ければそこに何でもあるから」
「凄いな。でもそれ里として機能してるの?」
「ええ。里にずっと住んでる人が色々と整えてくれてるのよ。世俗の物は外部に出払ってくれる人が持ってきたりしてくれてるし、なんていえばいいのかしら。親戚の家に行く感じでいいのよ」
僕はずっと教会育ちだから親戚もクソもないがなんとなくわかる。
「何人くらいいるの?」
「それはわからないわ。総数はみんな知らないと思う。ずっと住み着いている人もいれば時々しか来ない人もいるし、中にはいっぺん見ただけで音信不通の人もいるしね」
「家族……なんだよね?」
「ええそうよ。でも縛ることはないでしょ?一応掟はあるけどね。でも罰則はないの。掟は破っちゃいけないって認識があればそれでいいって考えだから」
なんだか今住んでる世界と真逆な感じがする。
「巴を連れて行ったらダメ?」
「ダメよ。関係ない人は入れてはダメだから」
「それは掟?」
「そんな掟はないわ。でもダメなものはダメなの。罰則はないけどね。だからヒカリがどうしても連れていくって言うのなら止めたりしないわ」
「うーん、でもダメならやめておくよ」
「そういうことよ」
小雪さんは少し微笑みながら僕に言う。そういう事って?
「掟やルールなんてなくてもダメだってことをわかったんでしょ?それでそれを行動に移した。だから掟を破ろうとする人はいないし、罰則が無くても自分で改める。いいところだと思わない?」
全員が全員善意を持てば世界は平和になると誰かが言っていたような気がする。それを千堂の一族は実践してるのか。確かに桃源郷だ。
「じゃあ明日の朝九時に校門まで待ち合わせでいい?」
「うん。小雪先生。案内お願いしまーす」
「………やっぱり馬鹿にしてない?それ」
ジトーっとした目で僕を見てくる。そんな目で見ないでほしい。僕だって女の子と話すだけで緊張しちゃうようなウブなんだぜ?
「女性二十人と寝た発言とは思えませんね」
「ん? なんか言った?巴」
「いいえ、なんでも。なんとなくそういうべきかなと思っただけですので」
放課後。特に何事もなく授業を終え(黒霧は授業中寝てたため生活指導を受けているが)、途中まで五条と一緒に帰ることにしたのだ。今は教室の中で二人だけで話しており、他の生徒は部活やらなんやらでいなくなっている。
「あ、ここだここ」
「ヒカリさんと……五条さん……」
そこで昨日会った上川と近藤が二人仲良く二年生の教室に入ってくる。感じ的にヒカリたちを探しにきたようだ。
「上川さんと近藤さんじゃん。どしたの?」
「昨日の……お礼……」
「助けてもらって何もしないのはどうかと思ってね。直接言いに来たのよ」
なんと律義な後輩なのだろう。近藤さんはともかく、上川さんも来るとは。
「そんなわざわざいいのにー」
「そうですよ。私は職務で助けただけです。二人が風紀を乱さない限り私はあなた方を守っていきますよ」
いいこと言うね巴。黒の会に入ってなければね。
「これ……どうぞ……」
「大したものでもないけれどね」
そういうと二人は鞄から色とりどりのお菓子を持ってきていた。いかにも高校生の女の子っぽい。実際そうなんだけどさ。
「うわー、ありがとう!で、二人はどう?今日はクラスの方はどんな感じ?」
「そうね。みんなびっくりしてたわね。私と美咲が仲いいんだもの」
「優菜ちゃんが……優しくしてくれた……」
下の名前で呼ぶ仲になったのね。でもその光景が目に浮かぶよ。いじめっ子といじめられっ子が一日で仲良くなるんでしょ?見てみたかった。
「あなたの取り巻きはどうなったんです?」
「三津橋とかでしょ?ちゃんと謝ったわ。最初は殴られたけど、最後はわかってくれたから本当によかった。五条。ありがとうね」
「それは良かったです。でも年上を呼び捨てとはどういう了見ですか?生活指導室へ行きます?」
二人とも笑顔なのが怖い……喧嘩はメっだよっ!
「まぁまぁ二人とも落ち着いてよ」
「あ、そういえば
「轟?誰それ」
「あのツインテールのですよ。ほら、カッター持ってた」
ああ、カッター少女ね、はいはい。え、なんでさ?
「あいつはヤバい。人間じゃないって。あいつに今度関わったら今度こそ殺されるって周りに言いまくってるんで今一年生の間ではヒカリさんの話題で持ち切りよ?」
轟ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
「も、もちろん上川さんはちゃんとフォローしたん……だよね?」
「いいえ?なんで私がそんなことをしなくてはいけないの?」
「巴、この人を生活指導室へ」
「合点承知」
「ああ、うそうそぉー!ごめんってぇー!」
嘘って今の話がってこと?それともフォローしなかったのがってこと?そこ大事なとこよ?
「ま、まぁちゃんとお礼は言ったかんね?じゃあまたね、先輩たち」
「色々と……お世話に……なりました……」
そう言うと二人は並んで教室を出ていく。これでホントの一件落着って感じかな。
「よかったね、巴。報酬がちゃんとあって」
「ええ……なんだか報われた気がします……」
巴は少し涙ぐんでた。祓い人としての初めての報酬か……初任給もらった的な?
「巴はもう一人で任務につけるの?」
「いいえ、まだです。まだ序列が決まってないので」
序列?と聞くと巴がはい、と答える。
「初戦は確かに経験しましたが千堂と一緒だったんで正確には一人前とは認められてないんですよ。初戦は経験しましたから、まだ祓い人の仮免許を習得したような感じですかね」
「そもそも序列ってどう決めてんの?」
「主に一から十番の人の誰かが一緒に戦闘についていってその実力を評価する方法と、隊長か副隊長のどちらかの推薦ですかね」
そっかー。まぁ数字で強さが測れるわけもないしね。見た感じで決めるのか。
「じゃあ一から十番の人たちは?」
「模擬戦を行います。一年に一度夏に行われるんですよ。見学に来ますか?」
「うん、面白そうだしね。その時は誘ってよ」
「はい。確か十日後くらいですので詳しい話が分かったらお知らせします」
「わかったよ」
十日後か。めっちゃ近いじゃん。オラ、ワクワクしてきたぞ!
「黒霧も帰ってきませんし、帰りましょうか」
「そだね。平和が一番だ」
僕らは荷物を整理して教室を出る。昨日メールで友達のところに泊まるっ急遽言ったから神父様怒るかなー、と考えながら。でも、そんなことないよね。神父様優しいし、ゆかりさんもキレイだし。きっと何とかなるよ。
「何とかなると思いましたか?」
「…………」
「おねぇちゃん悲しいわ。ヒカリが悪い子になってしまって」
「…………」
僕は帰ってきて早々、神父様とゆかりさんに玄関で正座をさせられて怒られていた。ルンルン気分で坂を上がって家に帰りついたらこれである。もうなんか恥ずかしい。
「それで?五条君の所に泊まったんですね?」
「………はい」
「何も失礼なことはありませんでしたか?」
「……………………はい」
「今間があったわね。正座をさせられるようなことをしたの?」
正座はしてましたけど自主的にですとは言えない。この二人に冗談は通じない。マジで飯抜きとかあり得るから。
「ヒカリ君。何故あなたは眼帯などしているのです?」
「え、ああ。これはちょっと目を打ったんですよ。そんな酷い怪我じゃないから大丈夫ですよ?」
まずい。この目を見られたら絶対になんか言われる。十字架でなく逆十字なんて神父様が見たら発狂してしまうかもしれない。何とかしなければ。
「じゃあちょっと見せてみてください」
「い、いいですよ!本当に何もないですから!」
「ヒカリ、なんだか怪しいわね……私に見せてみなさい?」
神父様とゆかりさんが僕に手を伸ばしてくる。これがエクソシストに襲われる悪魔の気持ちか………なんてアホらしい考えをしている場合じゃない!!
「あー!ヒカリンだー!」
「おかえり、あかえり、エリマキトカゲー!」
めっちゃ元気にレインとジュリーが僕に抱き着いてくる。あとジュリーは意味わかんないこと言ってんな。狂ってやがる……。でも今は好機!乗るしかない、このビッグウェーブにっ!
「や、やぁ二人とも!そ、そうだ。今日学校の友達からお菓子をもらったんだ!二人にもあげるから僕の部屋においでよ!」
「え?いいのー?」
「食べる食べるー!」
二人は強引に僕の手を引いて自室に案内させる。いいぞ、これはいい流れだ!
「ふ、二人とも待ちなさい!」
「ゆかりにはあげないよぉーだっ!」
「太っちゃうからお菓子なんて体のどくだよぉー?」
「わ、私は痩せてるからいいんですぅー!」
痩せてはないと思う。出るとこは出てるし、引っ込むとこは引っ込んでる。控えめにいって最高なんで僕は今のままがいいと思いました。丸。
ゆかりさんの絶叫が後ろから聞こえるが僕は無視して部屋に戻る。でも最後に見えた神父様の目が笑っていなかった。そんなにお菓子が食べたいのだろうか?今度何か買ってくるので今回は見逃してください……
「ほら、これがお菓子だよ」
上川さんと近藤さんからもらったお菓子を僕は二人に渡す。子供向けというよりはジャンキーな若者向けという感じなので二人の口に合うかわからないが、中学生くらいなら大丈夫だろう。
「ありがとう!ヒカリン好きー!」
「愛してるぅ!結婚してぇー!」
好きだよねー、この年代の子はこの手の言葉。簡単に人を好きって言える二人が羨ましい。
「それでヒカリンは何で眼帯してるの?」
「うん?ああ、内緒にしててほしいんだけどね。目にマークが出来ちゃったんだ。絶対に他の人に話さないでね?」
僕は眼帯を外す。僕からは目の刻印が見えないが二人は見ることができるだろう。しかし、この刻印を見た二人は目を大きく見開いて固まってしまった。
「う、嘘……刻印が出てるし増えてる……」
「もしかして手も?」
ジュリーが優しく僕の手を掴む。勿論そこにも刻印がしっかりと刻まれている。
「え、どうしたの二人とも?何か変だよ?」
「……………あなたには恩があるわ」
「私達の事をあんな風に言ってくれる人は今までいなかった。たとえあなたが私達の仇だとしても、嬉しかった……」
何のこと?僕は二人の仇?
「ヒカリ。私達は教会の囚われ。偽りの関係で縛られた
「あなたの言ったように私達は助け合える。手を取り合える。だからここから抜け出す手伝いは出来ないけれど、せめて私達にできる事は精一杯するわ」
そう言うと二人は僕の刻印に手を触れていき、何やら呪文のようなことを呟く。
「我らは闇、暗き者」
「すべてを隠し、偽り給え……」
するとスゥっと手のひらの刻印が見えなくなってくる。
「な、何をしたの?」
「教会の人にはこの刻印が見えないようにしたわ」
「でもこれは教会の関係者以外には見えるものだから眼帯はしていた方がいいわよ」
口調が子供っぽくなく、それは大人そのもののような話し方だった。こんな二人をヒカリは今まで見たことない。ヒカリは記憶操作されてる件で二人が何か知っているのかもと直感で思った。
「二人は……僕の記憶の事を何か知ってる?」
「!! それは言えないわ。もうタイムリミットよ」
「あの人の記憶操作も万全ではないの。でも、長く話せば話すほどあなたにしたことがバレやすくなる。だから……忘れないで。私達はあなたの味方。たとえ誰かに命令されていようと、心はあなたと共にあるわ」
ヒカリは黙って二人の目を見つめる。
きっと、今まで僕が見てきた世界は現実の世界とは違っていたのだろう。人を襲うバケモノやそれに対抗する組織、世界最強の一族なんてものもいるのだ。間違っていたのは世界ではなく、僕の認識そのもの。知らないことを、知らないままでいるのはもうやめだ。僕は知らなければならない。
しかし、二人に今聞いたところで答えられないというのなら仕方がない。僕は自分で見つけていく。それしかない。二人が僕の味方で、ここは囚われというのなら、僕は二人をいつかここから救ってみせる。
ヒカリは覚悟を決めた目でそっと頷く。それを見た二人も真面目な顔で僕に頷いた。
「でもさー、ご飯の前だからお菓子はまたあとで食べるねー?」
「残しちゃったらゆかりすっごい怒ると思うから!」
口調が以前のものに戻る。それがまるで藤野さんみたいだなと思ってヒカリは笑ってしまった。
そこへコンコンという扉をノックする音が聞こえる。
「三人共?ご飯ですよ、降りてきなさい」
「わかったー!」
「食べるベルぅーー!」
せっかくあげたというのに二人はお菓子を置いてトテトテと下まで降りて行ってしまった。
「ヒカリ、二人と何を話していたの?」
その声がさっきの事で心なしか冷たいもののように聞こえてしまう。ここが囚われというのであれば敵はおそらく教会そのもの。ゆかりさんも例外ではない。
「やだなぁー、ゆかりさんもお菓子ほしいの?太りますって」
「わ、私はいりませんよ、そんなもの!」
「またまたぁ~。これ後輩の女の子からもらったんですよ?それが要らないってことはもう味覚がおばさん………」
「……………」
「すいません、今行きます」
僕は無言で見つめるゆかりさんに違う意味で恐怖を感じながら階段を降りていく。結論、やっぱりゆかりさんは怖い。
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