第92話 世間話

 初対面の相手との話題には気を遣う。相手のことがよく分からない時点では、話題にも限りがある。無難なのは天気の話。時事問題など持ち出せば、かえって藪蛇。恨みを買うことだってある。

 営業の仕事をしている知人に聞いた話がある。初対面の相手に「今日は、よく晴れてますね」と声をかけて返ってくる反応で、分かることがあるそうだ。天気の話題で三〇分続けば、営業マンとして一人前らしい。

 相手が「ほんとにいいお天気」と答える相手なら、同じ営業マンか洗濯途中の主婦だ。「なかなか降ってくれない」と答える相手なら、畑仕事で水やりに苦労している農家。相手のニーズは天気の話題で推し量れる。

 職場に、役職名でなく個人名でかかってくる電話があった。個人的な知り合いだと勘違いして繋がれ、結局は営業の電話だったというオチ。「○○県に優良なマンションがありますが買いませんか?」とのこと。

 他県にある物件に興味があるわけでもないので断ると、「ほんとにいいんですよ」と食い下がる。そんなにいい物件なら「あなたはもちろん買ったんですよね?」と返すと、言葉に窮して電話を切られる始末。

 初対面の相手との話題には気を遣う。無難なのは天気の話。相手の気持ちを引き出せれば、こちらも安心できるし相手も気持ちがいい。口は一つで耳は二つ。相手が気持ちよく話せるなら、気を遣うこともない。

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