第88話 利き手
幼い頃、左利きだった。当時の刑事ドラマで「犯人は左利きですね」とくれば誰が犯人かおのずと分かるような時代。左利きは社会の少数派でしかなかった。右に矯正するのが常識でもあった。
父は、私を書道教室に通わせて右利きにした。だが、私が左利きの我が子を右利きにしようとしたとき、通わせていた保育園から「アドバイス」があった。「無理して右利きにすることはありません」とのこと。
無理して右利きにすると、脳に障害が出ることもあるとか、文字だけ右で残りを左にすると不器用になるなど「心配される事柄」を多数挙げられた。右利きに変える父親に、妙なこだわりがあると思われていたらしい。
左利きを右利きに直された私は、脳に障害があるのだろうか。昔の「矯正」は、かなり「強制」的だったから、心配な人も少なくなかったはずだ。だが、頑固なこと以外、心配な事例は、少なくとも身近では聞かない。
結局子どもは、文字を右手で書けるようになった。右手が疲れてくると、無意識に左手でも書いていたようだ。のんびりした性格で、右利きに変えたことによる不具合は、もちろんみられない。
少なくとも文字は、右で書きやすいように作られている。学校の毛筆の学習で、左手しか使えない子は辛かろう。せめて「右でも書ける」程度の技術は、身につけさせておいていいのではないか。
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