第74話 チョコ
中学三年の二月一四日、後輩の女子からチョコを貰った。お歳暮には遅いしお中元には早い。バレンタインを知らない中学生だった。手作りで、甘くしてきたと言うので、その場で頂いた。砂糖を入れたとのこと。
一口食べてみると、妙に塩辛い。砂糖ではなく塩を入れたらしい。けっこう多かったみたいだ。本人の目の前で吐き出すわけにもいかず、何とか飲み込んだ。その晩、腹が痛くなった。強烈な思い出だ。
以来、甘いものを受け付けなくなった。辛いものならいい。だが甘いものを見ると、下腹がシクシクと痛み出すのだ。お茶うけに出されるお菓子には手をつけないし、土産で貰っても誰かに食べてもらう。
フルーツの甘さなら、何とかなる。フルーツに塩を入れることはできない。ここまで考えてみると、あの日のチョコは、けっこうトラウマになっていたのかもしれない。おかげで太り過ぎることはなくなった。
甘いものを避けて食べていると、健康的な生活になる。でも、職場で世間話に興じるとき、お茶だけというのも気が引ける。お煎餅だと何だかジジむさい。職場の若い連中が、ビターチョコはどうかと言い出した。
なるほど、それはいい。そう答えてしばらくの後、バレンタインで義理チョコを頂いた。ビターの板チョコだ。板チョコには、ホワイトでこう書かれていた。「おのこしはゆるしまへん」……。有り難く頂きます。
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