第73話 輪

 毎年年末になると「今年の漢字」が話題になる。二〇一三年は、「輪」。このころは明るいイメージの漢字が多かった。この文字には、複数の相手とつながりをもちたいという願いがこめられている。

 二人で作るのは「輪」でなく「絆」。三人以上いないと作れないのが「輪」だ。「輪」を作るためには、三人目の仲間を、今いる相手と相談して見つけなければならない。互いに歩み寄らないと「輪」は維持できない。

 三人以上の「輪」があれば、人数分以上の「知恵」が生み出せる。「三人寄れば文殊の知恵」である。こうした知恵の積み重ねが、私たちの社会を支えてきた。「輪」という文字は、社会を支える文字でもある。

 しかし、小さい「輪」の中だけでつながっていると、他の「輪」を認められなくなってしまう。「輪」の中で歩み寄ったものの、高め合うことなく閉じてしまうのは、近くにあるどこかの国のようでもある。

 「輪」の条件が、「歩み寄る」だけで終わると、そのための苦労だけが価値あるものとなってしまう。苦労して作った「輪」の中は、居心地がいい。新しい仲間を入れて、それまでの居心地のよさを壊したくなくなるのだ。

 「輪」は、閉じてはいけない。互いを高め合うため、常に新しい仲間が必要なのだ。知恵の輪は、工夫すれば、つけたり離したりできる。それは、輪が閉じておらず、わずかにすき間を空けているからなのである。   

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