第65話 使いこなす

 焼き魚をほぐすとき、箸を上手に使えない人が増えた。以前見かけたのは、両手で箸を一本ずつ持ち、ナイフとフォークを使うように魚をほぐしている人。むろんこれは、極端な例である。

 箸は、中国から伝わった。今の倍近い長さで、先の方が円筒形、握りの部分が四角柱の細長い棒であったと聞いている。中国人は、「取り箸」として使い、実際に食べるときは陶器のスプーン「レンゲ」を使っていた。

 この箸を短くして先細りの形に改良したのが日本人である。突いたりほぐしたりと、様々な使い方ができるようになった。その分、器用な扱いが要求される。覚えるのに苦労する道具だ。

 箸は、親指の付け根と薬指で挟み込んだ「下箸」と、親指・人差し指・中指の三本で自在に動かす「上箸」がしっかり機能しないとしっかり使えない。また和服は、着付けの仕方が分かっていないと着られない。

 和室になると、ふすまや障子で区切ったり、取り払って広く使えたりする分、使う者の工夫が問われる。この国では、単純なものを器用に使いこなす文化が育った。こうした文化が廃れてきたと嘆く声もある。

 箸の使い方は不器用になった。和服を着ることのできない人も多い。一方、箸の持ち方の補助具や和服風のファッション等、不器用をサポートする工夫の在り方は、けっこう「器用」な気がする。

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